数字から見る「がん治療」の今

知っておきたい がん検診の受診が治るための第一歩

武藤徹一郎(むとう・てついちろう)がん研有明病院 名誉院長

2016年3月2日

患者さん本人だけでなく、ご家族や友人などががんに罹患(りかん)して、「日本人の2人に1人ががんになる時代」を実感している人は少なくない。
その一方で、近年、新たな治療法の開発や検診率の向上で治療成績が上がっているのも確かだ。
がん研有明病院の武藤徹一郎名誉院長に、日本の現状を伺った。

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肺がんや肝がんの治療成績には近年、5~17%の改善が見られる

「ここ50年ほどで医療技術や医師の知識が非常にレベルアップし、がんの治癒率は5割にまで向上しました」と語るのは、大腸がんの権威として、長年、がん治療に携って成果を上げてきた武藤徹一郎先生だ。

現在、がんによる死亡状況は、男性の場合、第1位が肺がん、2位が胃がんで、3位が大腸がん。女性は、第1位が大腸がん、2位が肺がんで、3位が胃がんとなっている。このうち肺がんは、下の図からも分かるように、5年生存率に改善が見られるがん種の1つだ。理由は、治療薬の開発とともに、がん検診の受診率が高まってきていることが挙げられる。がん治療の場合、決め手は、やはり「早期発見、早期治療」に尽きる。

 

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「レントゲンでは見つかりにくい場合もあるので、2、3年に1度はCT検査を受けるようにしたほうがよいでしょう」

また、がんの原因がある程度特定されることで、治療成績が上がるがん種もあり、当てはまるものに肝がんがある。

「地域差はあるものの、日本では肝がんの原因の90%は、B型、C型肝炎ウイルスといわれています。このウイルスに感染した患者さんの場合、発症を予測して、早期治療に備えることができます」

もちろん、肝がんについても、外科的技術の向上が治療成績向上に貢献していることが下の図からうかがえる。

 

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もともと治療成績のよい大腸がんや胃がんについては、ここ20年、横ばい状態

肺がんや肝がんに比べて、もともとある程度の治療成績を上げているのが胃がんや大腸がんで、これに関してはここ20年間で大きな向上は認められない。

「ただし、私が医師になりたてのころに比べたらめざましく進歩したといえるでしょう」

例えば、武藤先生が専門とする大腸がんの中で、以前は直腸がんにかかると肛門を摘除して人工肛門を付けるのが一般的な治療だった。だが、現在は肛門を温存する医師が増え、これによる患者さんのQOLの改善は計り知れない。

「専門医でないとこのような治療をせずに、人工肛門をすすめる医師もいますから、直腸がんの場合は、特に専門医がいるかどうかを調べる必要があります。専門分野についてはホームページに記載している病院もありますし、もし調べがつかないときは、がん診療連携拠点病院を選ぶようにするとよいでしょう」

胃がんについても、原因となるピロリ菌を除去することは有効な治療の1つで、また、内視鏡手術の発達により、早期であれば、開腹せずに腫瘍を摘除できる。

現に武藤先生も、2回ほど初期の胃がんを発症して内視鏡手術を受けている。1回目に胃がんと診断されたのは2005年で、まだ胃の粘膜にとどまっていたベビースキルスだった。その6年後、今度は2つの小さな腫瘍が見つかったものの、こちらも早期だったので内視鏡手術ですんだ。

「これほど早期に見つかったのは、内視鏡検査を受けていたからで、バリウム検査では見逃しがちな病巣も、内視鏡検査なら見つけられることがあります」と、武藤先生は、自らの体験から内視鏡検査を推す。

「若くしてがんにかかる人もいますが、高齢になるほどがんになるリスクは高まるわけで、その意味で、がんを発症するのは長生きの証しともいえます。がんにも認知症にもならず長生きするのは難しいということを自覚して、ある一定の年齢になったら、すすんで検診を受けるようにしてください」

 

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vol.8_sujikaramiru_05武藤徹一郎(むとう・てついちろう)
1938年、台北生まれ。1963年、東京大学医学部卒業。同大学医学部第一外科教授、同附属病院長などを経て、99年、癌研究会附属病院副院長に就任。2002年、同院長に就き、05年にはがん研有明病院院長、08年からは同名誉院長を務める。専門は消化器外科学で、著書に『大腸がん』(ちくま新書)など。(取材時現在)

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