部位別がん治療

婦人科がん(子宮がん・卵巣がん)治療の最前線

厚生労働省の人口動態統計を見ると、食道がんや肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、膀胱がんなど多くのがんで、女性のほうが男性に比べて死亡率がぐんと低いのが分かります。理由としては、男性のほうがタバコの喫煙率が高いとか、アルコールの摂取量が多いとか、また女性ホルモンの影響などが考えられます。治療薬についても、例えば肺がんの薬、ゲフィチニブ(イレッサ®)のように、男性よりも女性のほうによく効くなどという例もあります。女性は出産という大役を担っているからでしょうか、「そもそも女性の体は、男性よりも丈夫につくられている」といった見方をする研究者や医師もいます。そういう意味で、婦人科がんの子宮がんや卵巣がんもまた、死亡率が低いがんです。

 

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「乳がんや卵巣がんなどの死亡率が増加するなか、子宮がんは1985年ごろまでは大きく減少していたが、その後、やや増加傾向に。背景には、かつて子宮がんの約9割が子宮頸がんだったが、90年代に入って子宮体がんが大きく増えてきていることがある。子宮体がんの患者さんが増加している原因としては、食生活の欧米化のほか、晩婚化や少子化などが考えられる。

 

ここでは子宮がんと卵巣がんの標準治療と免疫療法の最前線を紹介します。標準治療とは、科学的に有効性が証明され一般に広く行われている手術や抗がん剤治療、放射線治療のこと。そして免疫療法とは、標準治療だけでは及ばないところをほとんど副作用なしにカバーするための治療法です。

 

20代で早期の子宮頸がんなら子宮は温存できる

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子宮は洋ナシをひっくり返したような形をしており、20~40歳のころは鶏卵くらいの大きさだが、閉経後は親指大までに縮む。卵巣は子宮の脇に2つあり、1つの重さは約5~15g。排卵やホルモンの分泌、月経、妊娠などに大きくかかわっている。

 

骨盤の中央にあって胎児を守り、育てる子宮は鶏卵くらいの大きさで、出口部分の子宮頸部と袋に相当する部分の子宮体部に分けられます。頸部に発生するがんを子宮頸がん、体部にできるがんを子宮体がんといい、2つはまったく性質の違うがんです。

子宮頸がんが20代からの比較的若い女性にも発症することが多いのに対し、子宮体がんは、多くが閉経前後から発症する中高年のがんです。また、子宮頸がんがヒトパピローマウイルスの長期感染が原因なのに対して、子宮体がんには女性ホルモンのエストロゲンが関係しているとされ、妊娠経験がない人や肥満、糖尿病の人がなりやすいのです。

子宮頸がんの初期は大半が無症状で、検診で見つかるケースが多く、その治療は手術が原則です。

早期の場合は頸部の病変部分を円錐形に切除するだけなので、子宮が温存でき、将来妊娠することができます。しかし、十分な治癒率が期待できない場合は子宮を全摘します。がんが進行して子宮周辺の軟部組織にまで広がった場合は、放射線治療となります。

 

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閉経後の不正出血でまず疑われるのが子宮体がんです。子宮体がんはCT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)による検査ではその進行度が分かりづらく、手術をして初めて正確な進行度が分かります。早期なら子宮全摘でほとんど治癒します。リンパ節への転移がある場合は手術後に抗がん剤を投与します。

 

卵巣がんには抗がん剤が比較的よく効く

卵巣は女性ホルモンを分泌したり排卵したりする親指大の臓器で、子宮の左右に1つずつあります。卵巣がんにはいくつかのタイプがあり、このことが治療を難しくしている理由でもあります。また、がんが大きくなるまで自覚症状がないため、進行がんとなって見つかるケースが多いことも問題です。さらに、良性の卵巣腫瘍と卵巣がんの区別が難しく、手術で腫瘍を摘出して病理組織検査をしなくては診断がつかないということもあります。

一方、抗がん剤が比較的よく効くというよい面もあります。手術でがんをできるだけ取り、残りは抗がん剤でたたくというのが治療の原則ですが、がんが卵巣から外に出ていない場合は、再発防止の抗がん剤治療を行わない場合もあります。両方の卵巣を摘出すると将来妊娠できなくなるので、妊娠を考えている患者さんの場合、卵子を液体窒素で凍結保存することもあります。

 

進行がんや再発予防の場合標準治療だけでは不十分

このように子宮がんや卵巣がんは、早期がんなら標準治療で完治が期待できます。進行がんとなると放射線治療や抗がん剤を併用して再発を抑えることになりますが、現状では十分な成果を上げているとはいえません。そのうえ、放射線や抗がん剤には、副作用の問題もあります。

抗がん剤は副作用がきついというイメージをもっている人が多いかと思いますが、放射線治療にもけっこう副作用があります。例えば子宮頸がんで放射線治療を行うと、ときには膀胱や腸にダメージを与えます。

放射線治療による体の負担を外科的手術と比べると、手術の場合、手術直後は苦しいのですが、その後は比較的楽です。放射線はその逆で、治療開始直後は楽ですが、治療を続けると下痢や皮膚炎などが起こることがあり、治療終了後も長引く副作用で悩まされることがあります。

再発防止に標準治療の効果はまだまだ不十分なので、そこで、期待がかかるのが免疫細胞治療です。

免疫細胞治療とは、患者さんの体の中のがん細胞を攻撃する免疫細胞を活用した治療法です。患者さんの血液から免疫細胞を採取して大量に培養。その免疫細胞が、がん細胞を攻撃するように活性化させて再び患者さんの体に戻すのです。

もともと患者さん自身の免疫細胞なので、副作用がほとんどないのが大きな特徴です。放射線治療や抗がん剤治療と併用しても、それらの治療の妨げとなることなく、むしろその治療効果を高める可能性が期待できます。ただし、健康保険が適用されない高価な自由診療なので、そこは納得して治療を受ける必要があります。

 

標準治療と相性がよく再発予防も期待できる免疫細胞治療

私が、東京都世田谷区で開院した日本初の免疫細胞治療の専門施設「瀬田クリニック」で治療を行ったのは1999年、今から16年前のことです。以後、瀬田クリニックグループが治療した患者さんの数は1万8000人を超えています。

 

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多くのがん患者さんに有効と思われる免疫細胞治療ですが、標準治療を終えて、がんの再発リスクが20%以上ある場合には、免疫細胞治療の有用性が期待できると考えます。再発率が低い患者さんの場合は、定期的な検査によって経過を見ることになります。しかし、再発率が30%以上となると、患者さんのほとんどが不安になって「何かできることはないか」と他の治療法を求めるので、そういう場合には、この治療法をおすすめするようにしています。

免疫細胞治療は従来の標準治療との相性がいいことも特徴の1つです。子宮頸部の扁平上皮がんの治療には放射線治療が有効で、欧米では手術より放射線治療のほうが主流です。ただ放射線治療をすると、がん細胞をたたいてくれるはずのT細胞までも減らしてしまう問題が起こります。このため、免疫細胞治療を併用すれば、逆にT細胞を大量に増やしてくれるので、放射線治療の効果を最大限に生かすことが期待できます。例えば、放射線治療には、リンパ球を増殖・活性化して体内に戻すアルファ・ベータT細胞療法を併用するとよいでしょう。

また、転移がある進行がんの患者さんが放射線治療を受けると、放射線が直接当たったがんが消えるだけでなく、放射線が当たっていないはずの転移がんまでも消える「アブスコパル効果」という現象が起こることがあります。

がんの目印を隠して免疫細胞の攻撃から逃れていたがん細胞が、放射線で殺されたことで目印を免疫細胞に見つけられてしまうからだと考えられます。免疫細胞治療を併用すれば、このようなアブスコパル効果についてももっと効果的に活用できるかもしれません。

 

抗がん剤治療との併用でも同様のことがいえます。抗がん剤を使えばがんを縮小させたり弱めたりすることはできますが、全部消滅させることは至難の技です。がん細胞に耐性ができて抗がん剤が効かなくなることもあります。ここに免疫細胞治療を併用すれば、がんが小さくなったままの状態を維持できるかもしれません。

最近、がん細胞に特異的にくっつく抗体というタンパク質を使った新しいタイプの抗がん剤が注目を集めています。この抗体医薬と免疫細胞治療は相性がよく、特に免疫細胞の1種のNK細胞は、抗体がついたがん細胞を強く攻撃する性質があります。抗体医薬と免疫細胞治療の1つであるNK細胞療法を併用すれば、がん細胞は抗体とNK細胞の両方から攻撃を受けることになります。

免疫細胞治療を受ける有用性があると思われるケースとして、次の4つが挙げられます。

1.再発リスクが30%以上あるにもかかわらず、リスクを減らす標準治療がない場合。
2.手術後に再発して、再々発のリスクがある場合。
3.様々な治療を受けたが、これ以上標準的な治療法がない場合。
4.放射線治療や化学療法などとの併用で、効果の上乗せが期待できる場合。

 

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また、子宮がんと卵巣がんにおける免疫細胞治療の有用性については、下記の表にまとめました。これらを参考に、患者さんやご家族が、納得のいくがん治療に向けて進んでいっていただけたらと思います。

 

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vol.8_meneki_07監修:後藤重則
医療法人社団 滉志会
瀬田クリニックグループ理事長・瀬田クリニック東京院長
ごとう・しげのり●1981年、新潟大学医学部卒業。県立がんセンター新潟病院、帝京大学生物工学研究センター、医療法人社団 弘生会霞ヶ関ビル診療所などを経て、1999年、瀬田クリニック(現・瀬田クリニック東京)へ。著書に『免疫細胞治療』(共著・河出書房新社)、『自分の細胞で治す 女性が知っておきたい最先端がん治療』(共著・PHP研究所)など。(取材時現在)