治療中の暮らしサポート・ケア

【樋野先生の「がん哲学」第4回】メディカルタウンのカフェで「がん哲学外来」を。

樋野興夫(ひの・おきお) 順天堂大学医学部 病理・腫瘍学教授

2014年10月21日

私たちの「がん哲学外来」は、これに関るスタッフが、自らの役割・使命を考える教育の場でもあります。私自身も、自分に固執することがなくなった。自分の一喜一憂などは、どうでもよくなった。ほんとうに自分にしかできないことをやる。そのひとつが「がん哲学外来」であり、今の私の使命です。

これを改めて実感したのは、2012年に国立療養所長島愛生園に招かれたときです。日本初のハンセン病(当時は、らい病)国立療養所として1930年に創設された長島愛生園は、96年の「らい予防」廃止以降も、高齢となった入所者が暮らしていました。カフェでは、ふたりの入所者と話をしました。

そこで私は、今までとは異なる質問を受けました。それまでは「人生の目的とは何でしょう」と訊ねられることが多かった。これに対して私は、敬愛する内村鑑三の言葉を引いて「品性を完成するにあり」と答えていました。しかし、長島愛生園では「何のために生まれたのか」と問われたのです。これほど苦しい人生を送り、しかも今、がんになって、この人生はどうしてあるのか、自分は何のために生まれてきたのか、と入所者は心優しい笑顔で問うのでした。私は答えました。「神を知るために」と。その人の目に涙が光りました。私にとって人生の重みを知る、大いなる学びの場となりました。長島愛生園では、「がん哲学外来カフェ」の常設化が決まりました。

今、私が楽しみにしているのが、「メディカルタウン」の実現です。地域に開かれた病院をコアとした、体にハンディをもつ人も安心して歩けるバリアフリーの街。そこには、患者さんの利用しやすいレストランやホテル、医療情報が手に入る書店もある。喫茶店では患者さんと看護師や医師、学生が気軽に会話をして交流する。そんな医療の共同体が「メディカルタウン」です。現在、順天堂をはじめ、多くの医療機関が集まる東京・お茶の水を「メディカルタウン」にする動きが進んでいます。「メディカルタウン」の喫茶店で「がん哲学外来」をやって患者さんと対話する。私の夢であり、使命のひとつです。

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樋野興夫樋野興夫(ひの・おきお)

医学博士/順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授。一般社団法人がん哲学外来 理事長。米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、フォクスチェースがんセンター、癌研実験病理部長を経て現職。近著に『使命を生きるということ 真のホスピス緩和ケアとがん哲学外来からのメッセージ』(共著、青海社)『がんと暮らす人のために がん哲学の知恵』(主婦の友社)など。(取材時現在)

 

「がん哲学外来」について
http://www.gantetsugaku.org/index.php

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