がんとQuality Of Life

抗がん剤の副作用である「嘔吐・吐き気」の度合いは患者さんに対する医療スタッフの接し方で変わるものです

肺がんの場合、手術できるケースは3割弱と言われ、抗がん剤の副作用に苦しむ患者さんは少なくありません。徳田先生はご自身の医療現場での体験から「抗がん剤イコール副作用という認識から見直すべきではないか」と語ります。

 

近年、 がんの患者さんが増え続ける要因の一つに高齢化が挙げられます。私が長年取り組んでいる呼吸器内科の分野においても、肺がんの患者さんは年々増加しています。肺がんにおける最大の問題は、外科的治療の可能なケースが3割以下であること。比較的多くの患者さんが手術治療の対象となる胃がんや乳がんとは対照的と言えます。

そこで、手術を受けられない7割以上の患者さんをどのように治療するかは、呼吸器内科を専門とする医師の大きな課題です。一般的には、抗がん剤による化学療法から始めますが、その開始に当たって、患者さんは、「 嘔吐(おうと)・吐き気」「白血球減少」「全身倦怠感(けんたいかん)」「手足のしびれ」「脱毛」など、抗がん剤の投与に伴って起こりうる副作用について医師から事細かに説明を受けます。いずれも起こってほしくない症状ですが、なかでも深刻なのは「嘔吐・吐き気」です。食欲減退や嘔吐は、体力だけでなく気力も萎(な)えさせるからです。

1年ほど前のがん化学療法の講演会で、講師の専門家は「30%ぐらいの患者さんに嘔吐が起こります」との発言をされました。私にとって「30%」は、納得しがたい数字でした。なぜなら当科では、吐き気を訴える患者さんは10〜20%くらいはいますが、実際に嘔吐する人は数%ほどだからです。

 

がんの治療においては多くの患者さんが、落ち込みや不安、恐怖といった精神的な悩みと同時に、薬の副作用や痛み、後遺症などの身体的苦痛も抱えていることが分かる。
がんの治療においては多くの患者さんが、落ち込みや不安、恐怖といった精神的な悩みと同時に、薬の副作用や痛み、後遺症などの身体的苦痛も抱えていることが分かる。

 

特別な抗がん剤や制吐剤(せいとざい)を使っているわけではなく、ごく一般的な治療を患者さんの状態を診ながら行っているだけなのですが、なぜ副作用を抑えることができているのか。「副作用についての細か過ぎる説明は避け、患者さんに過度な不安を与えないようにする」に尽きると思います。

「骨髄抑制」「軽い吐き気」「手のしびれ」――患者さんには、これくらいの説明で十分です。なかにはインターネットなどで副作用について調べ、医師や看護師に質問を投げかける患者さんもいるでしょう。そうしたときこそ、不安をあおらないような対応が必要です。

私は必ず笑顔で、「大丈夫、副作用、特に吐き気をそれほど心配することはありませんよ」と答えます。これは決して気休めでも誇張でもなく、事実です。病棟のスタッフもこのような事実を日々見ていますので、新しく治療を受ける患者さんの不安に対して、大丈夫ですよ、と明るく答え、励ますことができます。その結果患者さんも明るい気持ちで治療に臨むことで、吐き気、嘔吐に悩む人が極めて少なくなるという「良い循環」が、ここ十数年、ずっと続いているのです。大学病院やがん専門病院では、インフォームド・コンセントの重視から、患者さんやご家族に対し、医師は徹底的に副作用の説明をします。その説明を聞くだけで患者さんは落ち込んでしまうのではないでしょうか。

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