治療現場からの症例レポート

進行性非小細胞肺がんに対する分子標的薬と免疫細胞治療の併用

肺がんの治療に近年、パラダイムシフト(劇的な転換)が起きている。分子生物学の進歩により、発病のメカニズムが遺伝子レベルで解明され、組織型や変異などの遺伝子情報に応じて治療薬の効果や副反応を予測できるようになったからだ。「患者の特性により治療薬を選ぶ『個別化医療』に近づいている」。順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器内科の高橋和久教授が語る。

最も重要なのが、日本人に多い腺がん患者の約50%で見つかるEGFR(上皮増殖因子受容体)遺伝子の異変。分子標的薬のゲフィチニブ(商品名イレッサ®)とエルロチニブ(同タルセバ®)が70〜80%の高い奏効率を示す、という。「闇雲に抗がん剤を投与した従来の治療と異なり、効きやすい患者を絞り込んで使えるうえ、生存期間も従来の約2倍に延びた」。

ただ、使っているうちに薬の効きが悪くなる「耐性」が起きる患者がいるため、高橋教授らは、これらの薬に免疫細胞治療を併用する臨床研究を2009年4月から2012年3月にかけて実施した。EGFR−TKI(イレッサ®またはタルセバ®)を投与されていた進行性非小細胞肺がん患者のうち、
①腫瘍の縮小率が30%未満のSD(不変)かPD(進行・増悪)だった
②これらの薬の効果を医師が認め、患者も継続使用を強く希望した
――などの条件を満たす患者計10人(女性6人、男性4人、年齢中央値65.5歳、病期はⅡ期1人、Ⅲ期3人、Ⅳ期6人、全身状態はいずれも良好)を対象に実施。EGFR−TKIの投与と並行して活性化自己リンパ球(αβT細胞)療法を2週間間隔で計6回行い、画像で効果を判定した。

 

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その結果は、CR(完全寛解、著効)、PR(部分寛解、有効)はともにゼロ、SD4人、PD6人だった。奏効率こそ高くないが、「SD(維持できた人)が4人おり、病勢制御率は40%。EGFR −TKIの効果を維持する上では有効だ。免疫細胞治療の上乗せによる重篤な有害事象も見られず、安全性も確認できた」と高橋教授。「イレッサ®、タルセバ®は他の抗がん剤と違って、白血球やリンパ球を減らす『骨髄抑制』を起こさない。そのため、多くのリンパ球を効率よく採取できる利点があり、免疫細胞治療との相性がいい」。

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