治療現場からの症例レポート

放射線治療と免疫細胞治療の併用

放射線治療により約3割でCTLが活性化

群馬大学医学部(前橋市)は、全身療法である免疫細胞治療と、局所療法の放射線治療を組み合わせる免疫放射線療法の研究に取り組んでいる。

大学院医学系研究科腫瘍放射線学の鈴木義行准教授らは、トモセラピー(強度変調放射線治療)の機器を備える関連施設の日高病院(高崎市)で放射線治療を、やはり関連施設の平成日高クリニック(同)で免疫細胞治療を行う態勢を整備。2010年―12年の2年間に免疫細胞治療を受けた様々ながん患者126人のうち、10人に放射線治療を同時に施行した。

その一人、70代の女性Aさんは、08年に腎細胞がんと診断され摘出手術を受けたが、2年後、後腹膜腔内に大きな局所再発が見つかる。皮膚にも転移があり、体調が悪く寝たきりの状態となった。化学療法ができる状態ではなかったが、局所の放射線治療なら可能と判断して10年11月から、1回2グレイずつ5週間かけて計50グレイを照射するトモセラピーと並行して、2週間に1回のペースで免疫細胞治療(活性化リンパ球療法)を計6回施行した。その結果、Aさんの腫瘍は縮小し、歩行や食事ができるようになった。現在は自宅で療養しながら外来に通っているという。

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また、骨軟部腫瘍が手術後に再発した60代の男性患者は、前の病院で抗がん剤治療を続けたが腫瘍は増大・転移し、「もう治療法はない」と言われて免疫細胞治療を希望。10年から免疫細胞治療(活性化リンパ球療法と樹状細胞を患部に局所注射)を併用しながらトモセラピーを受けたところ、腫瘍は徐々に縮小し、その後1年以上も縮小した状態が保たれているという。

がんに放射線を当てると、別の場所にあるがんも消えることがある。「アブスコバル効果」といわれ、詳しいメカニズムはまだ解明されていないが、放射線治療に携わる医療関係者の間では以前から知られていた。免疫細胞治療と放射線治療の相性はいい」と鈴木准教授は指摘する。「がんと関係する腫瘍免疫の研究が近年進み、がん細胞に放射線を照射すると、細胞がアポトーシス(自死)を起こすとともに、免疫系を活性化させるタンパク質などを放出する、との研究報告もある」

鈴木准教授らは、08年1月から食道がん、頭頸部がんなど扁平上皮がん患者を対象に、放射線治療前と治療中、治療終了後、治療1 カ月後の計4回採血してリンパ球内のCTL(細胞傷害性T細胞、P14)の活性状況を調べた。すると、約3割でCTLの活性化を確認、放射線治療により特異的な腫瘍免疫が高まる可能性を示した。

鈴木准教授によると、近年、抗がん剤の開発に閉塞感が漂っているうえ、11年のノーベル医学・生理学賞を免疫の仕組みを解明し、自らすい臓がんを患いながら樹状細胞ワクチン療法で延命した米国のスタインマン博士が受賞するなど(P10)、免疫細胞治療 に対する注目が高まっており、研究も年々レベルアップし、著名な医学誌に論文が掲載される頻度が高まったという。「手術、放射線、抗がん剤の3大治療に免 疫細胞治療を併用することで相乗効果が期待できる場合があり、がん治療の初期から、これらの治療法と免疫細胞治療を組み合わせて治療の効果を高める治療戦略が必要だ」と、鈴木准教授は提言している。

国内で3 番目、重粒子線治療の開始で高まる期待yoshiyuki_suzuki01

群馬大学医学部は2010年6月から先進医療の承認を受けて「重粒子線治療」を始めた。国内では3番目で、これまでより小型で同等の能力をもった施設となっている。体の奥にある病巣部分でエネルギーを最大にできるのが特徴だ。ピンポイントで照射して正 常細胞への影響を最小限に抑える利点もある。制度上、免疫細胞治療との併用は現在できないが、理論的には有効で、将来は視野に入れている。

鈴木義行准教授(群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学)
※取材時現在