がんと免疫

患者さんにとっても大きなメリット 法律の制定により新しい再生医療・細胞治療の時代がスタート

2014年11月、『再生医療等の安全性の確保等に関する法律』(以下、再生医療等安全性確保法)と、『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』(以下、医薬品医療機器等法)が施行された。再生医療とは、病気やケガによって失われた組織や臓器を、人間の細胞を用いて治療や修復を行い、元の状態に形や機能の再生を図る医療のことをいう。がん治療においては、患者さんの免疫細胞を利用する免疫細胞治療なども法律の対象に含まれる。この法律により、患者さんを取り巻く環境はどう変わるのか。長年にわたり、再生医療に取り組んでいる東京大学大学院医学系研究科の髙戸毅教授に話を伺った。
 
 
2012年に京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥氏がノーベル医学生理学賞を受賞して以後、iPS細胞(人工多能性幹細胞)が注目されている。このiPS細胞など人間の細胞を利用して、失われた組織や臓器を復元したり、機能を回復したりする新しい治療が「再生医療・細胞治療」だ。

髙戸毅教授は、再生医療・細胞治療についてこう説明する。

「代表的なものに、表皮移植や骨髄移植がありますが、近年は、歯科でも歯周病などで失った骨や歯茎などの再建に、自己細胞を用いた臨床研究が始まっています。さらに虚血性疾患に幹細胞を用いた血管新生や心筋再生、糖尿病や動脈硬化による難治性潰瘍を治癒する再生医療も臨床研究の段階にあります」

また、乳がん手術後の乳房再建や若返り美容などに用いられている脂肪幹細胞は用途が広く、ヨーロッパでは膠原病(こうげんびょう)の1つである強皮症(きょうひしょう)の治療に用いられている他、炎症を抑える作用が認められ、ステロイド消炎鎮痛薬に代わる治療法としても注目されている。

「このように細胞の特性を利用した再生医療が、あらゆる疾患で有用となる可能性が期待できます」

今後のデータ集積によって 治療の安全性と効果が明らかに

患者さんの血液から採取したリンパ球などの免疫細胞を増強し、再び体に戻してがんを抑制する「免疫細胞治療」もこうした治療の1つだ。現在、大学病院などで先進医療や臨床研究として行われるだけでなく、民間のクリニックなどでも行われている。ただし、民間の場合は自由診療のためにデータの蓄積が難しく、効果や安全性が不透明といった課題もあった。

こうした背景を受け、昨年施行されたのが、「再生医療等安全性確保法」と「医薬品医療機器等法」だ。「再生医療等安全性確保法」では、再生治療を行うすべての医療機関に、しかるべき審査を受けたうえでの、厚生労働省(厚生労働大臣)への計画提出が義務化された。特にこれまで不透明だった民間医療機関での実施状況を国が把握することで、安全性を高めることが狙いだ。

 

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その一方で、医療機関にのみ許されていた細胞加工を、これも厚生労働省の許可を受けた企業に委託できるようになった。さらに従来の薬事法が「医薬品医療機器等法」として改正され、再生医療等製品がいち早く実用化される制度が導入され、再生医療を行いやすい環境が整った。

「再生医療が普及、発展するには、様々な医師がこれに取り組み、よい結果を出すことが重要。それを後押しするのがこの法律だと思っています。信頼できる施設が選別されるだけでなく、医療機関が独自に細胞加工施設などをもたなくても、安全・効率的に治療を行うことが可能になります。また、有害事象などの報告義務も課せられ、データが蓄積されるので、今後、安全性や効果がより明らかになってくるはずです」

免疫細胞治療においても、「がん治療の有効な選択肢として認知されて発展する。その道筋ができた」という。

さらに髙戸教授は、こんな話も夢ではないと締めくくってくれた。

「再生医療が適正に発展することで、将来的には事前に保管していた自分や他人の細胞を使い、中枢神経や臓器の再生などが可能になるでしょう。そうすれば、様々な難病も完治できるようになるかもしれません」

 

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vol.8_meneki2_03髙戸 毅(たかと・つよし)
1979年に東京大学医学部医学科卒業後、同医学部附属病院形成外科、国立がんセンター、トロントこども病院等を経て、東京大学口腔外科学講座教授に就任。現在、東京大学大学院医学系研究科 感覚・運動機能医学講座、口腔外科学分野教授。同医学部附属病院22世紀医療センターセンター長。先端医療の実用化を目指し、多くの企業と連携し、再生医療をはじめとする新たな臨床医学や研究開発を積極的に行っている。(取材時現在)