がんと免疫

免疫が切り開く「がん治療」の未来

免疫細胞の大きさは7~25μメートル(μメートル=1ミリメートルの1000分の1)。わたしたちの身体のなかにあるこの小さな細胞たちの働きぶりが、近年遺伝子レベルで解明されるようになった。それにより、がん治療に新たな可能性が広がってきている。

 

病原体から身体を守る精密な戦闘集団

わたしたちの身体は日々、細菌やウイルスなど多くの病原体にさらされています。病原体は、食事や呼吸などからも体内に侵入しますが、その度に重い病気にかからないですむのは、「免疫」というすぐれたシステムのおかげです。

その中心的な役割を果たしているのが「免疫細胞」と総称される細胞集団です。免疫細胞は、侵入してきた細菌類やウイルスに感染した細胞、また正常な細胞が突然変異を起こして発生したがん細胞など、身体にとって危険な病原を、直接あるいは間接的に攻撃し、緻密に連携して戦う戦闘集団です。

免疫細胞には、さまざまな種類と役割があり、それらがみごとに連携して、わたしたちの身体を守っているのです。

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meneki01免疫の力が医療の未来を切り拓く
免疫細胞には外敵を発見するもの、外敵の情報を伝えるもの、攻撃の指示を出すもの、直接的に攻撃するものなど、周到なバランスで異なる役割を担うさまざまな種類がある。その全貌はまだ明らかになってはいないが、今後さらに免疫の仕組みの解明が進むことで、医療の大きな進歩が期待できると考えられる。がん治療の際も、治療の効果を支えるのは、患者自身の免疫の力なのだ。

 

 

 

 

 

標準的がん治療に必要な免疫の力

seino清野研一郎(北海道大学遺伝子病制御研究所)
※プロフィールは取材時現在

免疫には2つのシステムがあります。一つは樹状細胞やマクロファージ、NK細胞、好中球などが病原体の発見と初期攻撃を行う自然免疫です。それに対し獲得免疫は、T細胞やB細胞が、自然免疫から情報を受け取って活性化し、自ら分化して病原体を攻撃、防御する免疫です。この2 つの免疫システムの連携は非常に重要です。最近の研究で、免疫の機能をわざとなくした実験用のマウスにがんを植えつけ、抗がん剤や放射線で治療をしたところ、正常なマウスのがんは小さくなりましたが、免疫不全のマウスでは縮小せず治療が効かなかったという結果が出ました。抗がん剤や放射線である程度やっつけられ、壊されたがん細胞の中からは、がん細胞の目印やさまざまな情報が出てきます。これを自然免疫の細胞が認識して攻撃部隊であるT細胞などに情報を伝え、がん細胞を攻撃します。ところが、免疫不全のマウスでは、こうした仕組みが働かず、がん細胞を制御することができなかったのです。免疫が働いていない状態では、抗がん剤や放射線治療をしても充分な効果が得られないということは、標準的ながん治療を行うにあたっても患者さん自身の「免疫の力」 が非常に重要であり、がん治療に不可欠なキー(鍵)であることを物語っているのです。

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