がんと免疫

免疫が切り開く「がん治療」の未来

kogenteijisaibo01「頭のいい」がん細胞との壮絶な戦い

免疫細胞は忠実に任務をこなし、見事なチームプレイでがん細胞などの外敵からわたしたちの身体を守っています。ここでは、もう少し詳しく免疫とがん細胞との関係
を見てみましょう。

免疫とは、自分以外の異物を見分けて排除する仕組みです。しかし、そもそもがん細胞は自身の細胞が突然変異してできたものなので、自分の一部でもあります。そのため、非常に見分けにくい細胞でもあります。

では、なぜ免疫はがん細胞を見分けて攻撃できるのでしょう?
それは、がん細胞にはほかの細胞とは異なる特性があるからです。それが「がん抗原」と呼ばれる特別なタンパク質で、免疫が攻撃する際の標的となります。

しかし、なかには抗原を出さないがん細胞や、免疫を抑制する物質を出すがん細胞もあります。がんは、優秀な戦闘部隊である免疫細胞にとっても、一筋縄ではいかない「頭のいい」強敵なのです。

 

免疫細胞治療はがん治療の新たな選択肢

免疫の力が解明されるにつれ、その考え方はさまざまな医療現場で活用され始めました。がん治療の現場も例外ではありません。

T細胞などの攻撃部隊が活性化・増殖すれば、がんを攻撃し続けるはずです。しかし前述のように、がん細胞は免疫細胞の攻撃や増殖を止めるような能力ももっており、さらに肉眼で見えるほどに成長した腫瘍のがん細胞は、数億個以上。免疫細胞優位の状態であれば、がん細胞を全滅させることも夢ではありませんが、免疫細胞よりがん細胞の力のほうが強くなってしまった場合、免疫細胞にとって状況は限りなく不利になります。

こうした免疫とがんの力関係に着目したがんの治療法が、「免疫細胞治療」です。一度免疫細胞を体外へ取り出して攻撃力や数を増幅させてから、再び体内へ戻して、がんを攻撃しょうという治療法で、自分の細胞を使うため、重篤な副作用はありません。がんの種類やステージを問わず受診することができ、抗がん剤や放射線治療などの標準治療との併用で相乗効果が見込まれます。

免疫とがんの研究は、日進月歩で進んでおり、「最後まであきらめない治療」として、免疫細胞を使った治療法が注目されています。

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古くて新しい免疫の歩み
紀元前
●古代アテナイの歴史家、トゥキュディデスが「二度なし現象」を記す
著書『戦記』のなかで、トゥキュディデスが、ペストに一度かかった者は二度とかからなかったことを「二度なし」という言葉で記述。免疫の概念を表した世界初の記述として19世紀末に細菌学者パスツールが再発見した。
14世紀
●ペスト(黒死病)が猛威を振るう
phA17世紀
●「体液病理学説」に対して「病原微生物」という概念の誕生
西欧では体液のバランスが崩れると病気になるという「体液病理学説」が信じられてきたが、17世紀になると感染症の病原は微生物であると考えられるようになった。
●顕微鏡で「病原微生物」をつきとめようとする動きが始まる
●天然痘が猛威を振るう
1798年
●イギリスの医学者、エドワード・ジェンナーが天然痘ワクチンを発表phB
人工的な牛痘(天然痘に似た牛の病気)によって人痘に対する免疫ができることを実証。世界初のワクチンが誕生した。
19世紀
●コレラと結核が猛威を振るう
1882〜83年
●ドイツの医師で細菌学者のロベルト・コッホが結核菌、コレラ菌を発見phC_Robert_Koch
伝染病は特定の微生物が体内に侵入することによって発症するという仮説を立証。コッホの研究は、現在の細菌学の基礎をつくった。
1885年
●フランスの細菌学者、ルイ・パスツールがワクチン療法を開発phD_Pasteur
伝染病の研究を進めていたパスツールは、狂犬にかまれた少年にワクチン治療を初めて試みて、成功を収めた。
1890年
●ドイツの医学者アドルフ・フォン・ベーリングと北里柴三郎が共同で免疫現象に「抗体」が関与していることを発表phE
北里柴三郎はコッホに師事した日本の細菌学者。ベーリングとともにジフテリアと破傷風の抗毒素を発見し、免疫学的理論に基づく血清療法の基礎を築いた。
1980年
●WHOによる全世界天然痘根絶宣言
1981年
●エイズの第一症例が報告される
免疫機能を破壊される新たな病気としてエイズの症例が世界で初めて発表された。この年の症例報告後、わずか10年程で感染者は世界中に100万人までに広がった。
2011年
●樹状細胞の役割の解明によって、ラルフ・
スタインマン教授がノーベル生理学・医学賞を受賞。
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