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より自然で安全な乳房再建を目指す〜脂肪組織由来幹細胞の再生力を利用〜

日本では16人に1人の女性がかかるという乳がん。その数は増加傾向にあるが、早期発見や治療法の進歩により、以前ほど怖い病気ではなくなってきた。乳がん治療は19世紀末、アメリカの外科医ハルステッドが確立した乳房切除術(乳腺全摘術)が主流であったが、その後、早期がんに対しては、がん細胞とその周辺組織のみを切除する乳房温存術が普及した。現在、手術による療法としては、どちらかを選択するようになっている。

その一方で、乳房の喪失や変形による患者さんの心や身体的苦痛は大きく、元の姿を取り戻す乳房再建に注目が集まった。2006年には患者さんの腹部や背中などの組織を移植する乳房再建術が保険適用となった。そして13年6月、自己負担だったインプラント(人工物)再建にも一部保険が適用され、「乳房再建までを含めて乳がん治療」という意識が高まりつつある。

とはいえ、欧米に比べると日本での乳房再建の普及率はまだ低い。「生活に支障がなければ乳房の形にこだわらなくてもいいのでは」といった風潮や周囲の無理解などが原因とも言われる。

 

乳がん手術の選択

乳がん手術の選択肢としては、乳腺全摘術と乳房温存術があるが、日本では乳房温存術が選ばれることが多く、治療の6割以上を占める。乳腺全摘術の場合、皮弁移植や人工物による乳房再建術が行われる。乳房温存術においても、術後に乳房の変形や陥凹が目立つ場合があるが、適した再建方法がないのが実情である。
乳がん手術の選択肢としては、乳腺全摘術と乳房温存術があるが、日本では乳房温存術が選ばれることが多く、治療の6割以上を占める。乳腺全摘術の場合、皮弁移植や人工物による乳房再建術が行われる。乳房温存術においても、術後に乳房の変形や陥凹が目立つ場合があるが、適した再建方法がないのが実情である。

 

再生医療で乳房再建の 新しい道を開く

2012年、鳥取大学医学部附属病院形成外科・中山敏准教授が率いる研究チームは、患者さんの立場に立った乳房再建の研究をスタートさせた。厚生労働省承認のもと、「ヒト幹細胞(※)を用いる臨床研究に関する指針」に基づいた乳房再建に関する日本で初めての臨床研究だ。鳥取大学医学部附属病院は、自分の体から皮弁を採取し、自分の他の部位へ血管吻合(ふんごう)して移植する方法(遊離皮弁術)において世界でもトップクラスの成功率を誇っている。

※幹細胞とは、組織や臓器の成長(分化)の元になる細胞。幹細胞を増殖、分化させて、必要な細胞や組織を作り出すことも可能。

 

日本の乳がん治療は前述したように年々進歩してはいるものの、乳房温存術後に乳房が変形し、再建手術を希望する人も多い。今回の中山准教授の研究では、こうした人々のQOL(生活の質)の改善と向上を図ることが大きな目的だ。中山准教授は、「皮弁移植でも乳房は再建できます。しかし、背中やおなかに傷が付くので嫌がる人もいます。もっと楽に再建したいというニーズに応える義務がありますし、いろんな選択肢が用意されていたほうがいい」と語る。

そこで中山准教授らは、患者さん自身の脂肪組織由来幹細胞を移植する「自己皮下脂肪組織由来細胞移植」を用いた乳房再建の臨床研究(2012年7月〜14年3月)を行った。20歳以上の女性で乳房温存術から1年以上経過し、再発や転移のない、乳房の変形によってQOLが損なわれている5名を対象とした。ホームページなどで希望者を募ったところ、全国から44名の研究参加希望者があり、診察や検査などの結果、選出された人たちだ。

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