乳癌・子宮癌・卵巣癌の治療 知っておきたい「がん治療」に役立つ知識

女優アンジェリーナ・ジョリーさんの告白によって注目を集める「遺伝性乳がん・卵巣がんと遺伝子検査」

2014年10月7日

遺伝子検査がもたらす有用な対策

BRCA1・2の病的変異を持つことがわかっている家系では、がんを発症していない血縁者に対して遺伝子検査をすることによって、陽性者には有用な対策を講じることが可能となる。例えば、専門医のもとでHBOCの特徴やリスクを踏まえた定期的ながん検診を受け、早期発見に努めることなどである。遺伝子検査で、BRCA1・2遺伝子が発見されたからといって、必ずがんになるわけではない。また、予防的切除(リスク低減手術)しか方法がないということでもない。特に乳がんの場合、早期発見できれば10年生存率は、0期95.45%、Ⅰ期89.10%(日本乳癌学会「全国乳がん患者登録調査報告第29号」引用)という治療成績だ。一方、発見時に進行していることが多い卵巣がんは、確実な検診方法に乏しいのが現状で、卵巣・卵管の予防的切除(リスク低減手術)を行うと、卵巣がんだけでなく乳がんの発症も減少するとされている。

遺伝子検査はその結果により、受診者の精神面などに重大な影響をもたらす可能性がある。そのため、検査を受ける前に専門家による十分な遺伝カウンセリングを受けることが推奨されている。日本では、健康保険が適用されないなど課題は少なくないが、医療機関による遺伝性乳がん・卵巣がんに対する取り組みが始まっている。我が国では、遺伝性乳がん・卵巣がんの問題に対応できる医師や遺伝カウンセラーによる診療体制の整備や、新たな治療方法の開発に向けて、日本HBOCコンソーシアムを立ち上げた。

ジョリーさんのニュースは、従来の治療法に加え、遺伝子検査・予防的切除(リスク低減手術)という選択肢の存在を知らせることとなった。近年、遺伝子検査によって、肺がんや大腸がんに対する治療効果を予測した上で選択する分子標的薬の登場など、遺伝子情報を利用した医療は、すでに行われている。がんの性質は、一人ひとり異なる。様々な選択肢の中から治療法を検討する個別化医療の傾向は、今後も高まっていくことだろう。

 

vol4_wmn02監修/中村清吾(なかむら・せいご)
昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門教授・昭和大学病院ブレストセンター長。1982年千葉大学医学部卒業。同年より、聖路加国際病院外科にて研修。同ブレストセンター長、乳腺外科部長を経て、2010年6月より現職。(取材時現在)
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