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世界で急速に展開する陽子線治療。一方で臨床的有用性は未検証。米国で陽子線とX線各治療の初の比較臨床試験が進行中

作詞家で直木賞作家のなかにし礼さんが、食道がんにかかって受けた治療は陽子線治療だった。放射線治療の中でも陽子線治療は先端的で治療効果も高く、副作用も少ない――。なかにしさんのケースが大きく取り上げられたこともきっかけで認知度が高まり、治療施設、患者数も年々増加している。

陽子線治療の進む日本でも注目される米国の臨床試験

ところがここ数年、海外では陽子線治療に対し、従来からのX(エックス)線の治療成績を上回る科学的根拠がないとの指摘や批判が目立つようになった。米国臨床腫瘍学会 (ASCO)は2012年、賢い選択を勧める「Choosing Wisely Campaign List」に、科学的裏付けのない治療法の一つとして陽子線治療を挙げた。

そんな動向を反映し、マサチューセッツ総合病院(MGH)とペンシルベニア大学の共同、MDアンダーソンがんセンターの単独による陽子線治療とX線治療を対象にした世界初のランダム化比較対照臨床試験(RCT)が、それぞれ進行している。前者は前立腺がん、後者は食道がんが対象だ。

陽子線治療の歴史は意外に古い。がん病巣(標的)の前後を突き抜けるX線に比べ、標的を直撃すると放射線が消滅する線量分布――高い線量集中性が正常組織にさほど影響を与えず、副作用が少ない物理的特性に着目し、米国で1960年代初めに試みられた。日本でも、79年に放射線医学総合研究所(放医研)で行われた。地道な臨床研究の時期を経て今世紀に入り、陽子線治療への関心が世界的に高まっていったのだ。

陽子線治療は放射線治療法の一つ。X線の場合は病巣の前後にある正常組織にも放射線が照射されるが、陽子線は狙った場所を直撃するとほぼ消滅するので、標的後方の正常組織への被曝がほとんどない。
陽子線治療は放射線治療法の一つ。X線の場合は病巣の前後にある正常組織にも放射線が照射されるが、陽子線は狙った場所を直撃するとほぼ消滅するので、標的後方の正常組織への被曝がほとんどない。

 

陽子線と同じ仲間の炭素線を含む粒子線治療の世界横断的な組織、PTCOG(国際粒子線治療共同グループ)によると、2013年3月時点で世界の陽子線治療施設は15か国41施設に上る。米国の12施設に日本の7施設を合わせると、日米で世界の半分近くを占める。

日本は現時点(2014年8月)で9施設になったが、治療開始目前の1施設に加え、計画中が数か所ある。粒子線治療の患者数が10万人を超えた中で、陽子線治療はその9割を占め、その半数以上は米国。日本も約1万人に及ぶ。

 

2014年3月に治療を開始した北海道大学病院陽子線治療センターの内部。
2014年3月に治療を開始した北海道大学病院陽子線治療センターの内部。
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