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日本における再生医療の第一歩として注目を浴びるiPS細胞の臨床研究。世界のリーダー山中伸弥教授の研究を基に理化学研究所チームが動き始めた

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を人間の治療に用いる世界初の臨床研究(眼科手術)が2014年の9月12日、神戸市の先端医療センター病院で行われた。2007年に山中伸弥京都大学教授がヒトのiPS細胞を作製して以来、基礎研究を重ね、臨床応用を目指してきた理化学研究所(理研)などのチームによるもので、患者は失明のおそれもある加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)の70代女性。自分の皮膚細胞から作製したiPS細胞由来網膜色素上皮細胞を移植された後の経過は順調で、術後1週間で退院した。今後少なくとも4年間、網膜の中心部にある黄斑に移植した細胞シートの定着、眼球全体への影響など安全性を確認する。

手術後、執刀した先端医療センター病院の栗本康夫眼科統括部長(中央)らと記者会見した理研の高橋政代プロジェクトリーダー(左)。
手術後、執刀した先端医療センター病院の栗本康夫眼科統括部長(中央)らと記者会見した理研の高橋政代プロジェクトリーダー(左)。

 

iPS細胞の実用化研究が日本の再生医療を変える

この臨床研究は、理研の発生・再生科学総合研究センターの高橋政代プロジェクトリーダー(眼科医)を中心に綿密な準備が進められてきた。高橋医師は術後の会見で「再生医療の第一歩」と今回の手術を位置付けた。

今後5人の患者に同じ移植手術が実施される。この手術以外の対象疾患は網膜色素変性(視細胞の疾患、理研)、パーキンソン病(神経細胞、京大)、心不全(心筋、大阪大)、脊髄損傷(神経幹細胞、慶応大)で、16年から18年3月までに着手される予定。いずれも国の疾患・組織別実用化研究拠点Aに指定されている機関だ。

このようにiPS細胞の実用化に向けた研究で日本は優位に立っている。だが、欧米では10年以上前から万能細胞の呼称で知られた胚性幹細胞(ES細胞)による再生医療が主流であり、パワーも日本をはるかに上回る。それを測る指標の一つに、専門誌などに掲載された世界各国の大学・研究機関の論文が、他の論文でどれだけ引用されたかを見る「被引用数」がある。

世界最大級の学術論文データベースをもつ国際情報サービス企業「エルゼビア」(本社・オランダ)が、読売新聞社と共同調査し、同紙の14年9月24日付朝刊に発表した再生医療の影響力ランキングが参考になる。被引用総数は米ハーバード大学がダントツの1位(4万8159本)、次いで米スタンフォード(1万8072本)、米ペンシルベニア(1万7272本)、英ロンドン(1万4960本)の各大学、米国のMDアンダーソンがんセンター(1万4709本)と欧米勢が5位までを占める。日本勢は、京大が17位(1万623本)、東大54位(5581本)、以下、大阪大93位、名古屋大94位と続く。

調査の対象になったのは、08年から12年に発表された論文の中から、再生医療の関連用語が含まれる6万2294本。ただし、iPS細胞分野に限ると、ハーバード大の1位は変わらないが、京大が2位に躍り出る。大阪大23位、慶大28位、東大は44位だ。

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