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C型肝炎治療の新たな時代。インターフェロン注射から、ウイルス完全排除の飲み薬へ移行。高価格薬による治療適応拡大で費用対効果の議論も前面に。

大西正夫(おおにし・まさお)
医事ジャーナリスト・埼玉医科大学客員教授

錠剤1粒を1日1回、12週間飲み続けるだけで体内のウイルスを完全に排除できるC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」が注目を集めている。治療効果以外に、1錠8万171円という超高価格が話題性を高めたともいえる。「紛失したら」と思うと手が震えそうだ。

ハーボニーは、米国の大手バイオ医薬品メーカー、ギリアド・サイエンシズ社が開発し、2014年10月に米食品医薬品局の承認を得ると、あっという間に欧州に広がった。日本での発売は15年9月。国内臨床試験(第3相*)で、ウイルスの排除状態を表わすSVR率(持続的ウイルス陰性化率)は、未治療、既治療の患者さんにかかわらず海外データと同様の100%を示した。C型肝炎の患者さんたちが待ちわびていたものだった。

12週間で計84錠を飲み続けるハーボニーの標準治療薬価総額は約670万円。既存の治療薬に比べるとはるかに高額だが、日本では公費助成制度の対象となり、患者さんの個人負担は、通常、月額1万円程度ですむ。肝臓専門医が患者さんの病態・状況を診て治療法を提案し、処方する。服用患者数は急速に増え続け、発売から半年間の売り上げは1千億円を超え、治療効果もめざましい。

 

インターフェロンから画期的な経口新薬の時代に

C型肝炎の感染者は世界で1億数千万人。日本は150万人以上と推定され、国内の肝がん発症原因の7割を占める。感染状態が続くと、肝細胞の線維化を経て慢性肝炎に移行し、肝硬変、肝がんの発症リスクが高まる。ちなみに国内の肝がん死亡者数は、02年の3万5000人をピークに減少に転じ、14年に3万人を割り込んだ。C型慢性肝炎治療法の進歩も、その要因の1つだ。

 
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上の表は、段階的な進化を遂げてきたC型肝炎治療法とウイルス排除率を示している。1992年に注射によるインターフェロンの単独投与が始まり、2011年まではインターフェロンと新たな抗ウイルス薬との併用でSVR率を高めてきた。14年になると、重い副作用が患者さんの負担になっていたインターフェロンを併用しない、経口薬(飲み薬)の段階に入った。

飲み薬第2弾に挙げたソバルディは、ギリアド社が13年12月に米国で初承認を受け、日本では15年5月に承認された。1錠6万 1799円。ハーボニーはこれに別の抗ウイルス薬を加えた配合剤だ。第3弾のヴィキラックスは、米国のアッヴィ社がギリアド社に対抗して市場投入した新薬で、日本には15年11月に入ってきた。1錠2万6801円。ハーボニーの3分の1だが、1日1回2錠の12週間服用でトータル約450万円。欧米では政府や薬剤給付管理会社が、経済的理由からヴィキラックスに乗り換えるケースも出ている。

その一方で、11年に登場した直接作用型抗ウイルス薬(DAA)には、遺伝子の耐性変異の問題も生じている。ダクルインザとスンベプラの併用で、遺伝子変異がない場合には92%のSVR率を達成したが、変異があると40%に低下したとの研究結果は、治療対象に変異の有無をチェックする重要性を浮き彫りにした。ただし、ハーボニーに関しては、耐性変異の問題が生じたとの報告はない。

また、ウイルス完全排除で治療が終わるかとの問題点も浮かび上がった。ウイルスが排除されると肝炎は沈静化し、肝がん発症の危険性は低下するが、なくなるわけでない。インターフェロンには抗腫瘍効果が期待され、使われなくなったことで発がんリスクが高まる可能性を指摘する専門家もいる。

しかし、ハーボニーなど、新規の直接作用型抗ウイルス薬は副作用が少ないため、これまで治療ができなかった肝硬変や高齢の患者さんへの治療が期待でき、さらに合併症(関節リウマチ、血友病など)を抱える患者さんにも手を差し伸べることができる。感染に気が付いていない膨大な数の潜在的な患者さんを見つけ、早期に治療することも可能になる。

高価な薬剤を用いることで、費用対効果の議論も予想されるC型肝炎治療をめぐる最近の動向に目が離せない。(2016年5月時点)

*多数の患者さんを対象に同意を得て行われる有効性と安全性を調べる試験。

ダクルインザ®、スンベプラ®はブリストル・マイヤーズ スクイブ 社の登録商標。ソバルディ®、ハーボニー®は、ギリアド・サイエンシズ社の登録商標。ヴィキラックス®は、アッヴィ社の登録商標です。

大西正夫(おおにし・まさお)
医事ジャーナリスト・埼玉医科大学客員教授(取材時現在)

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