治癒を目指す患者さんにとって、がんの再発は、初めてがんを宣告された時以上に大きなショックを受けます。
2003年に「がんの社会学」合同研究班が行った全国調査によるとがんと診断されてから、現在までに「再発(転移)」があると告げられた人は、23.6%との回答があります。再発、とくに転移をともなう場合は、その後の治療の選択肢も限られてくるのが実情です。
がんの再発と、再発を防ぐために必要なことを見ていきます。
「がんを取りきった=がんが治った」ではない。再発の可能性を理解する
再発とは外科手術などで取りきったように見えた原発巣のがんが、目に見えないほどの大きさで残っており、それが時間を経て増大し発見されることです。
つまり、再発とは完全にがんが治っていなかったことを意味しています。「完全寛解(かんぜんかんかい)」という言葉も、画像診断や検査等でがんが検出できない状態になったことを示しているものであって、現在の検査技術では見いだせない微小ながん細胞が残っている可能性は否定できず、「完全寛解=完治した」という意味ではないのです。
このように、手術などで取りきったように見えても、体の中には目に見えない小さながんが残っている可能性があることを知っておく必要があります。
[キーワード] 原発巣
がんが最初にできた部位を原発巣と呼び、再発は原発巣にできたがんと同じ性質を持つがん細胞が、再び現れること言う。たとえば、肺がんが治療によって見えなくなった後、肝臓に再び現れた場合、原発巣と同じ性質のがんが現れていれば「肺がんの肝転移」であり、異なった性質のがんであれば、肝がんの新たな発症ということになる。
再発の3つのタイプ
再発のタイプは大きく分けて三つあります。1つめは、がんがあった部位と同じ場所やその近くに現れる「局所再発」。2つめは、がんが周囲の組織に浸潤し、周辺のリンパ節に発生する「領域再発」。3つめは、図①のようにがんがリンパ管や血管を通って局所から遠く離れた部位に現れる「遠隔再発」。これは転移して再発したということになります。
例えば、結腸がんの場合、結腸はお腹の中の広い空間にあるため、切除手術の際、比較的がんの部分を広く切除しやすく、局所にがん細胞が残る確率が低くなります。そのため、局所再発よりも遠隔再発が多く見られます。結腸がんは、肝臓への転移再発することが多く、その理由は大腸から肝臓への静脈経路の流れにがん細胞が乗って移動しやすいからです。
また、肝細胞がんの場合、多くは肝炎ウィルスによる慢性肝炎や肝硬変を背景としているため、高い確率で肝臓内の別の場所に再発(局所再発)します。このように、がんの種類や性質などから、再発しやすさ、転移の起こりやすさや場所についてもある程度予測でき、対策をとることができるのです。
図① 再発・転移のしくみ
再発予防のために有効な「術後補助療法」
再発の危険性は、ステージが上がるにつれて高まることが知られており、例えば図②の大腸がんの切除手術後の再発率の場合、ステージ3の場合は30.8%で、ステージ1に比べて非常に高くなっています。一方で、どのステージで見ても、術後5年を超えて出現するケースは1%未満となっています。
こうしたことから、多くの場合、術後5年間再発が見られなかった場合に「がんが治った」とみなされています(乳がんなど、症例によっては10年の場合もあります)。「手術後の5年間」が患者さんにとって、第2の闘いであることを意味しており、その期間に再発を防ぐことができれば、それ以降にがんが再び発症する確率は非常に低くなるのです。
再発によるリスクを抑えるためには、まず主治医の指示に従い定期的な検査を確実に行うことです。仮に再発した場合でも、早期に発見できれば対処しやすい場合もあります。さらには、再発のリスクが高いと想定される場合、再発予防を目的として先制的に行う「術後補助療法」も重要な選択肢となっています。
再発は、前述したとおり、最初のがんが発生した局所だけでなく、遠隔転移して再発する可能性もあり、あらかじめ部位が特定できません。そこで術後補助療法ではまず、全身療法である「術後化学療法」、「術後内分泌療法(ホルモン療法)」が検討されます。
また、局所再発を防ぐための方法として、放射線治療が選択されることもあります。いずれも、再発リスクの高いステージの場合や、がん種ごとの特性に応じて治療法が選択されることとなります。
図② 大腸がんの再発率と再発部位
再発を正しく知り、対策を講じることで、心の負担を減らす
近年では、自分の免疫細胞を強化して投与する免疫細胞治療が、肺がんや肝臓がんの再発リスクを低減させると論文報告されており、患者さんのQOL(生活の質)を保ちながら行うことができる再発予防治療として期待され、研究や臨床応用が進められているところです。
さらには、標的となるがん細胞にのみ薬剤が集中して届くよう設計されたドラッグ・デリバリー・システム(DDS:薬物送達システム)を使うことにより副作用を抑えながら抗がん剤治療が行える、新たな治療法なども開発途上にあります。こうした新たな技術により、今後さらに積極的に術後補助療法を行えるようになっていくと考えられます。
ただし、いずれの術後補助療法も、がん種や進行度によって推奨されるケースが異なってくることや、治療の適応時期が限られている場合があります。さらには副作用の有無など、一長一短な面もあるため、主治医とよく相談することが大切です。
再発、特に転移再発が起こった場合は、その時点で根治が難しいことが多く、治療は延命や症状を和らげることを目的とするものになります。
このようにがんの治療は、最初の手術でがんを取り去った後、再発させないようにすることが、完治を目指すために大変重要であると言えるでしょう。
図③がん体験者の悩みや負担の実態
[コラム] 再発率とがん登録
大規模かつ網羅的な統計としてまとめられた再発率に関するデータが乏しい現状がある。ひとつの理由として、日本はがん対策のための情報整備が遅れていることがあげられる。
これまでも医療機関や自治体単位による「がん登録」が推進されてきたが、十分な成果には至ってこなかった。
そこで2013 年5 月議員連盟である「国会がん患者と家族の会」が「がん登録法案」の骨子を作成。これは国の責任において、がん患者のデータの全数登録を義務化し、悉皆的なデータに基づいた分析や予防措置を含んだ対策、治療開発への貢献、患者のニーズに応えることなどを目指すというもの。現在、同会では、がん対策の充実に向けてパブリックコメントを募っている。(2013年6月時点)