がんと闘う名医

「患者さんのためになるのか」その一点を見つめて挑戦し続けたい―神垣隆(医療法人社団滉志会 瀬田クリニックグループ臨床研究センター長)

2013年4月12日

ドクターの肖像神垣 隆(かみがき たかし)
医療法人社団滉志会 瀬田クリニックグループ臨床研究センター長

1995 年、神戸大学大学院医学研究科修了。国立神戸病院 外科、神戸大学医学部附属病院 第一外科などを経て、2010 年に瀬田クリニック大阪クリニック院長に。12 年7月、瀬田クリニック新横浜院長、医療法人社団滉志会瀬田クリニックグループ臨床研究センター長。(取材時現在)

 

 

 

 

 

日本人の2人に1人ががんになる、といわれる現代。その治療の最前線で寝食を忘れてがんと闘う医師たちがいる。

「患者さんの身体にやさしい、副作用の少ない治療を ― 患者さんに新たな治療選択肢を ―」
最先端の免疫細胞治療でがんの克服を目指す医師たちの取り組みや考え方、未来への展望を追った。

誰もやったことのない分野を、我々はフロンティアとしてやってきた、という自負をもっています――。おだやかな笑みを浮かべて神垣隆はいう。臨床研究センター長として勤務する瀬田クリニックグループは、この分野のパイオニアとして十数年にわたり免疫細胞治療でのがん治療を行うとともに、大学病院などとの臨床研究に積極的に取り組み、安全性・有効性のデータを一つひとつ積み重ねてきた。その結果が、いま出始めているのだ。

「もちろん、効果がある、期待できる、という結果です」

五大がんとされる肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝臓がんをはじめとして、すい臓がんや子宮がん、卵巣がんなどでも、抗がん剤治療と免疫細胞治療を併用すると、より長く延命が期待できるという結果が出つつあるという。
「外科医の私が、手術をしないこのクリニックでがん治療に携わろうと決心したのは、ここが研究する医療機関だからなんです」

時間をかけて患者の話を聞き、専門的な検査を用いて、それぞれの患者のがん細胞の特徴や免疫の状況を調べ、腫瘍のキャラクター、患者の状況を見極めたうえで、患者ごとに最も適した免疫細胞治療を選択。「がん免疫細胞治療の個別化医療」を積極的に行う。
「がん細胞の“顔”は、部位による違いだけでなく、同じ種類のがんでも患者さん一人ひとりで違います。樹状細胞ワクチンやガンマ・デルタT細胞療法、NK細胞療法など、さまざまな免疫治療技術がありますが、誰にでも同じ治療を施せば良いのではなく、患者さんごとに治療法を選択し、組み合わせ、最適化された個別化医療が理想です」

弁護士だった父の背中を見て育ち、子どもの頃から多くの人に貢献できる仕事に就きたいと思っていた。自身が病弱だったことも手伝って、医学の道を選んだ。神戸大学医学部を卒業。大学の縁で、現在も兵庫県立粒子線医療センターにも非常勤で勤務する。

大学勤務時代には、講演に訪れた瀬田クリニック開設者である江川滉二東京大学名誉教授の免疫細胞治療の研究と実践の話に、感銘を受けた。
「そもそも免疫がしっかりしている人は、手術もうまくいくし、抗がん剤や放射線治療も効く。治療のあらゆる局面において免疫は非常に重要です。そういう意味で、免疫細胞治療は、がん三大治療の実施においても基盤となる治療法といっていいと思います」

 

命に関わることなのだから、がん治療にはいろいろな選択肢があることを知って欲しい。

手術、抗がん剤治療、放射線治療に比して新しい治療法である免疫細胞治療は、13年前の瀬田クリニック開院当初から、治療効果のエビデンス(証拠)が少ないと批判された。こうした批判がいまだにあることは、神垣もよく知っている。
「一人の医師としてはデータ至上主義には疑問をもっています。しかし当然、治療の効果を明らかにしていくことは重要です。私たちは臨床データを一つひとつ 積み重ねると共に、様々な大学や医療機関と共に新たな治療技術の研究に力を入れて取り組んできた。その結果、より高いレベルで信頼できるデータが蓄積され てきた、ということなのです。がん免疫治療技術は必ず近い将来、なくてはならないものになると確信しています」

 

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近年、分子生物学や免疫学が 飛躍的に発展したことで、人間に生来備わった、がん細胞などの異常な細胞を攻撃する免疫応答の仕組みが分子レベルで解明され、世界中で研究開発が進んでい るが、標準治療にはなっておらず、まだまだ新しい分野であることは間違いない。

しかし神垣はいう。
「私たちのグループでは、常に研究的姿勢をもちながらも、いま目の前にいる患者さんに何ができるのか、何が本当に患者さんのためになるのか、を第一に考え ています。必要な場合は倫理委員会にも諮り、安全性や期待される効果を検討することはもとより、患者さんの立場に立った倫理的側面も重視して臨床に取り組 んでいます。たとえ難治がんであっても、私たちと共に、諦めずにがんに挑戦してほしい」

神垣が信条とするこの「挑戦」の精神は、医師の顔から一男二女の父親の顔に戻った時も変わらない。
「チャンスがあれば逃げずに前に進もう。ドアがあれば必ずノックしよう」が、薬剤師だった夫人と共有する教育方針なのだ。「ドアの向こうには何があるの か。不安になって躊躇しようとする子どもの背中を、押してやるのが親の仕事でしょう。逆に私自身が家族に背中を押してもらう事もあります。今もほとんど休みも取れない状況ですが、家族には応援してもらっています」

 

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大学病院の外科医師から瀬田クリニックグループに――。この転身は、神垣に「チーム医療」の充実感を実感させているという。以前もひたむきにやってきたと思うが、どこかに「仕事の割り振り」をこなす自分がいたことに気づいたのだ。
「ここにいるスタッフは医師だけでなく、看護師や細胞加工技術者から受付・事務に至るまで本当にみんな一生懸命。患者さんのために、と皆が頑張っている。 患者さんは、自分の命に関わることなのだから、私たちにも、おかかりの主治医にも遠慮せず何でも聞き、質問して欲しい。そして、いろいろな選択肢があるこ とを知り、前向きに治療に取り組んで欲しい」

がんは、いつかは人類は制御できるだろうといわれ続けてきた。だが、3人に1人ががんで亡くなる現状では、とても制御できているとはいい難い。「永遠に制御するのは難しいかもしれない」という人もいる。神垣はいう。
「すべてのがんを完治させることはできないかもしれません。しかしながら10年、20年、苦しまずにがんと付き合って最期を迎える。そういう時代は必ず来る、と確信しています」

setaclinic01医療法人社団 滉志会 瀬田クリニックグループ

1999年、当時まだ知られていなかった免疫細胞治療をより多くの患者に提供することを目指して開設された免疫細胞治療専門クリニック。神垣医師が院長を務める新 横浜のほか、東京(飯田橋)、大阪(江坂)、福岡(博多)に施設がある。また、複数の大学病院、中核病院と共同で臨床研究を積極的に取り組んでいる。

●問い合わせ
・瀬田クリニック東京
住所/東京都千代田区神田駿河台2-1-45 ニュー駿河台ビル3階
電話/0570-088-272

・瀬田クリニック新横浜
住所/神奈川県横浜市港北区新横浜2-3-12 新横浜スクエアビル15階
電話/0570-088-472

・瀬田クリニック大阪
住所/大阪府吹田市江坂町5-14-13
電話/0570-088-572

・瀬田クリニック福岡
住所/福岡県福岡市博多区店屋町6-18 ランダムスクウェア5階
電話/0570-088-672

HP/http://www.j-immunother.com

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