がんと闘う名医

「よりよい手術」に挑戦。夢は「新しい手術」を創造すること―瀬戸泰之(東京大学医学部附属病院 胃・食道外科科長)

2014年11月11日

vol4_doctor01瀬戸 泰之(せとやすゆき)
東京大学医学部附属病院 胃・食道外科科長
1984年、東京大学医学部医学科卒業。専門は胃がん、食道がん。2005年、癌研有明病院消化器外科副部長、その後、同院上部消化管担当部長を経て、08年から東京大学大学院医学系研究科消化管外科学教授。(取材時現在)

 

 

 

 

 

 

将来的には、がんの手術はなくなるかも知れない。がんは予防できる疾患になっているかも知れない。しかし現在、胃がんでは年間5万人以上、食道がんでは1万人以上が死亡している。「よりよい手術を目指し、この数字を改善することが責務」と語るのは、胃・食道がん手術の名医・瀬戸泰之教授。その理想的な外科手術とは――。

 

理想的な手術とは――。この問いかけに、たくましい体にふさわしい力強い声が返ってくる。「基本は臓器を温存する、残すことだと考えます」

胃がんと食道がん手術を専門とする瀬戸が、母校である東京大学医学部附属病院へ戻ってきたのは2008年のこと。それまでは、日本有数のがん専門病院である癌研有明病院(現がん研有明病院)で上部消化管(胃・食道)外科担当部長として活躍していた。

「癌研有明病院では、年間およそ500例の胃がんと、100例の食道がんの手術が行われていました。これらの手術は、臓器を温存する、という方向で進められます。この経験を活かして、東大病院でも患者さんに最新・最善のがん治療を受けていただくことが私の責務です」

それが、「胃を残す、食道を残す」よりよい手術へとつながる。「どんな進行状態の胃がんや食道がんであっても、再発を防ぎながら必要な臓器を残すには、どのような方法があるのか。常にそのことを考えています」と語る。

現在、放射線治療技術の進歩や、薬物療法における新しいタイプの治療薬として注目される分子標的薬の導入など、がん治療には大きな進歩が見られる。早期がんについては、胸腔鏡や腹腔鏡などの内視鏡による手術が普及した。「これによって、術後の痛みの軽減など患者さんのQOLが向上したことは間違いありません」。しかし――と、瀬戸は後を続ける。「胃がん切除手術に初めて成功したのは、ドイツ出身の外科医テオドール・ビルロート。19世紀後半のことです。じつは胃がんや食道がんの手術方法は、このビルロートの時代から本質的には大きく変わっていません。現在、乳がんの手術では、乳腺を温存する方向に進んでいます。しかし、胃がんや食道がんの場合は、臓器を切除せざるを得ない。手術の安全性は格段の進歩を遂げましたが、手術の原形は、130年も前に創出された手術方法が、スタンダードとされているのです」

食道がん、胃がんの名医として患者の信頼が厚い外科医である瀬戸教授は、研究者であり、教育者でもある。「優れた人材の育成は、未来のためにもとても大切な仕事と受けとめています。若い人から刺激を受けたいという思いもありますね」
食道がん、胃がんの名医として患者の信頼が厚い外科医である瀬戸教授は、研究者であり、教育者でもある。「優れた人材の育成は、未来のためにもとても大切な仕事と受けとめています。若い人から刺激を受けたいという思いもありますね」
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