より根治性の高い治療はないか――常に探し求めていると必ず思うような出会いはあるものです。
最近は、肝がんに対する治療法として中心的役割を担う「ラジオ波焼灼療法」。森安が日本で最初に行ったのは1997年のことだった。「ラジオ波焼灼療法」とは熱による治療法。患部に細い針を刺して、そこに10〜15分間、低周波の電流を流して温度を100度に上げ、その熱でがん細胞を焼く。簡単な麻酔でできるうえ、がん細胞を直撃するため、体への負担が少ないというメリットがある。ただし、がん細胞の近くを太い血管が通っていると、その部分は血液によって熱が奪われるので温度が上がりにくくなる。十分な治療効果が得られないこともあり、そこに再発が起こりやすいというデメリットもある。
これに対して、「ナノナイフ」は、「ラジオ波焼灼療法」の欠点をカバーする治療法ともいえる。「ラジオ波焼灼療法」よりもずっと細い針を使い、患部に3000ボルトの電流を流してがん細胞に穴を開けて死滅させるのだ。この治療法は電流を使うため、「温度」に左右されることがないのはもちろん、死滅するのは細胞のみで、周囲の神経や血管など、繊維の束でできているものにはダメージが及ばないというメリットがある。しかし、扱うのは3000ボルトもの電流。これを1万分の1秒という稲妻のような速さで、しかも心臓の収縮に合わせて流さなければならないのだから、非常に高度な技術と知識が要求される。
ナノナイフの臨床研究には2014年7月、日本で初めて森安が挑んだ。そのときのことをふだんはクールで落ち着いた森安が、「ラジオ波焼灼療法の治療後、再発した肝がんの患者さんにナノナイフの治療を行ったら、がん細胞が完全に消えた。この画像を確認したときには身震いするほどの達成感を感じました」と興奮気味に語る。
人生のほとんどを医療の進歩に費やしてきたといっても過言ではない森安の唯一の趣味はゴルフ。7年ほど前、16歳年下の妻と出会ったのもゴルフ場だった。2人とも無類のゴルフ好き。さらに、このとき彼女の父親が膵(すい)がんを患っていたことで、森安の存在が良き理解者から人生のパートナーへとなっていったことは、彼女にとってごく自然の流れだった。
恩師、新技術、そして人生のパートナー……。様々な出会いに導かれるように医学の道を突き進んできた森安は、これからも正しい診断と正しい治療、そして患者さんの体に負担の少ない治療を基本に命と向き合っていく。
(敬称略)