治療中の暮らしサポート・ケア

がん治療の手術跡などに「カバーメイク」を活用して日常生活をより生き生きと。

2014年12月9日

がん治療の副作用による手術跡や皮膚のしみなどの外見変化の問題

自らメークの指導を行う分田医師。「医療者が行うメリットは、その皮膚症状を見て、やっていいこととダメなことの判断ができるという点」。
自らメークの指導を行う分田医師。「医療者が行うメリットは、その皮膚症状を見て、やっていいこととダメなことの判断ができるという点」。

カバーメークとは、皮膚科領域で主に用いられる技術で、きずあとや痣をファンデーションで目立たなくする。これを、東京大学医学部附属病院乳腺内分泌外科の分田貴子医師は、がんの手術痕や、治療の副作用による外見変化に悩む患者ケアに取り入れ、「がん患者さんへのカバーメークとQOL(生活の質)に関する研究」に取り組んでいる。

きっかけは4年ほど前、国立がん研究センター中央病院で抗がんワクチンの研究チームに参加していたとき、「抗がんワクチンを打った皮膚には赤い接種痕が残り、それがとても目立つので、なんとかしたいと思ったから」だと言う。

しかし、通常の診察・治療では、患者から皮膚症状に関する悩みは聞かれなかった。そこで改めて聞き取り調査を行うと、「人目が気になって、温泉やプールに行かれない」「人と会うのをためらう」などの声があがった。

実は、ほとんどの人が外見変化に悩みを持っていたが、医師への遠慮があり、言い出せなかった。

分田医師はさっそく外見変化が生じたがん患者14人に対し、カバーメークを行った。するとQOLの統計的な有意性は見られなかったが、全員から「満足した」との答えが返ってきた。

しかし、その一方、不満の声もあった。従来のカバー用ファンデーションはクレヨンのような固さで伸びが悪く、広い範囲に塗るのが困難。手順も複雑。さらに水に弱く、温泉やプールに入るととれてしまうという弱点もあった。そこで、塗りやすくて落ちにくいファンデーションの必要性をメーカーに提案。ボディ用のチューブ型クリームが誕生した。

指で軽く、すっと伸ばせて使いやすい。しかも、乾いた後はオイル・クレンジングで落とすまで持続する。フェイス用は一般のファンデーションと同様のコンパクト型タイプ。どちらも、患者の満足度は高い。

 

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(写真左)SC ボディカバーファンデ
全4色/各40g/3,200円+税
「簡単に塗れて、落ちない」というこれまで相反するものと考えられていた2つの要望を実現した。オイルタイプのクレンジングで落とす。
(写真右)カバーリングツインファンデ
全4色/ベース用10g・カモフラージュ用1.5g/2,400円+税
コンパクトの左側、流線型部分がカモフラージュ用のコンシーラー。ベース用は顔全体に。香料、合成色素、鉱物油、防腐剤、アルコール、紫外線吸収剤不使用。

▶商品のお問い合わせ先
マーシュ・フィールド株式会社 http://www.marsh-f.co.jp/
フリーダイヤル0120-853-171

抗がん剤や放射線治療による皮膚の変化にも対応

イギリスVeil社の製品は色数が豊富。日本には男性向けの濃い色が少ないのでVeil社から何色か輸入する予定。
イギリスVeil社の製品は色数が豊富。日本には男性向けの濃い色が少ないのでVeil社から何色か輸入する予定。

分田医師は、外来診療の中でカバーメークの指導を行う他、病棟の入院患者から要望があれば、病室での出張指導も行っている。今後は、ウィッグやネイル、術後の下着など、外見ケアに必要なものをすべて揃え、自由に試せるサロンを院内に作るのが目標だ。

「現在は、がん治療に伴う手術のきずあとはもちろん、抗がん剤や放射線治療の影響による皮膚の変化部位にカバーメークを行っています。最近では、皮膚への副作用が大きい分子標的薬が増えてきており、これらへのカバーメークも重要になってくると思います」

カバーメークを行った際、それまでは「外見変化の悩みはない」と言っていた患者が、ふと「これで温泉に行ける」という言葉をもらしたことがあったという。外見変化の悩みに、自分自身が気づいていない場合もある。

また、「メーク」というと女性のものと捉えられがちだが、外見変化のケアを求める気持ちは男性も同様だ。「年齢、性別は関係ありません。クリーム1つで悩みが軽減することを多くの方に知ってほしいです。まずは気軽に試してみてください」。

 

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東京大学医学部附属病院、外来診療棟1階の売店。カバーメーク用のファンデーションも取り扱っており、気軽に手に取って見ることができる。

東京大学医学部附属病院の乳腺外科外来(月曜・午前)では、カバーメークの相談を行っている。希望する場合は主治医に相談するか、予約センター(03-5800-8630)へ電話のこと。

 

 

 

 

 

vol4_QOLex06b分田貴子(わけだ・たかこ)
2002年東京大学医学部卒業。イギリスChangingFacesスキンカモフラージュプラクティショナー。2013年より東京大学医学部附属病院乳腺内分泌外科助教に。(取材時現在)

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