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やりたいことをあきらめないためのリンパ浮腫のケア

2021年7月13日

早期からの適切なケアで重症化は避けられる

リンパ浮腫とは、乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの治療で行うリンパ節の切除や、放射線治療などによってリンパ液の流れが悪くなることで腕や脚などの皮膚の下にリンパ液が溜まってむくんでしまう状態をいいます。

いろいろな文献がありますが、乳がんではおよそ10人に1〜2人、子宮がんでは10人に3人程度の割合で発症すると言われるリンパ浮腫。今のところリンパ浮腫を100%避けられる治療法は確立されていませんが、もしリンパ浮腫になっても、早期から適切なケアをすれば、軽症のまま過ごすことが可能であることを知ってほしいと思います。

 

リンパ浮腫は乳がん・子宮がん治療の後遺症として発症する場合が多いため、女性に多いことが特徴です。片方の腕や足が太くなる症状が出るので、おしゃれを気にする女性には気になります。

インターネットでリンパ浮腫のことを調べると、重症の写真が多く出てくるので、これから手術を受ける方や、手術して間もない方はショックを受けたり、とても悩まれる方がいらっしゃいます。しかし今は重症化することは稀です。

10数年前までリンパ浮腫はあまり一般的には知られていませんでした。乳がん・子宮がんを専門に見ているお医者様でも、リンパ浮腫に対する正しい知識がなく、「命さえ助かったんだからそれで良いでしょ」という考え方をする方も少なからずいらっしゃいました。

また世の中に出ている情報も少なかったので、リンパ浮腫を発症してもどこにも相談できずに、悪化させてしまう方が多くいました。

今は、インターネットで検索をすると沢山の情報が出てきますので、少しでもおかしいと思えば、早期にリンパ浮腫を治療している医療機関を探して相談するができます。

また、医療従事者にもリンパ浮腫の情報は知られていますので、主治医などからも専門の病院を紹介してくれる場合もあります。こうして、早期にリンパ浮腫ケアを始めることができるので、重症化するケースは減ってきています。

 

多くの患者さんのケアに携わって分かった、リンパ浮腫のケアへの誤解

リンパ浮腫の悪化する3大要因として、一般的に言われるものとして「体重増加」、「使いすぎ」、「感染症を起こす」があります。

ただ、臨床の場で1万人以上のリンパ浮腫のケアに携わってきた経験の中で、こうしたことは一部患者さんに誤解を生んでいると感じています。

 

まず体重増加についてです。たしかに体重増加はよくありませんが、標準体重を大きく超えているような方が、標準体重を目指さないといけないと考えて急激なダイエットをすることはおすすめできません。

リンパ浮腫を発症している方が1〜2kg体重を減らしただけでも、むくみの具合が大きく改善するのをたくさん見てきました。ですので、体重は一般的に言われている標準体重を目指す必要はなく、ご本人の調子が良いと感じる体重を目指すのがベストだと考えます。

 

次に、むくみのある腕や足を使いすぎたときにリンパ浮腫になるといわれていますが、実際には使い過ぎるほど動ける人はあまり見かけません。逆に同じ姿勢が続くこと、つまり座りっぱなし、立ちっぱなしといった、動かさなさすぎることで悪化する方のほうが多いように感じます。

リンパ管を流れるリンパ液は自力で動くことができません。周りの筋肉を動かすことでポンプの役割を果たすので、関節を適度に動かすことが大切です。そして、筋膜にはリンパ管がたくさんあります。筋膜を動かすためには、関節をただ動かすだけでなく、ストレッチをすることが効果的です。

 

 

最後に感染症ですが、注意しなければならないのは蜂窩織炎(ほうかしきえん)と言われる感染症です。蜂窩織炎を発症するとリンパ浮腫が悪化してしまうケースは残念ながら多いため、蜂窩織炎にならないための予防策は大切です。蜂窩織炎の予防には、病原となる細菌を体に中に入れないようにすることが大切です。

【蜂窩織炎の予防方法】

1) 虫刺されなど外傷を避けるため、手袋、長袖のシャツ、ズボンなどを着用する。
2) 土いじりなども極力注意する。
3) 爪周囲の清潔に心がける。
4) 水虫があれば治療する。
5) 保湿クリームや薬用石鹸を使用する。
6) 無理や過労は避ける。

出典:一般社団法人日本リンパ浮腫学会ホームページ リンパ浮腫の治療

 

こうした予防対策は大切です。しかし過度に気にすることは、人生の質を下げてしまう場合もあります。

 

患者さんの「やりたい」を実現するためのケア

リンパ浮腫関連の本や情報をみていると、重いものを持ってはいけない、激しい運動はやってはいけないなど、たくさんの禁止事項が書かれていることを目にします。そのため、患者さんの中には今までやってきた趣味や好きなことを諦めてしまう方がいらっしゃいます。そんな方に私は「ちょっと待ってください」と言っています。

そもそもがん治療も、リンパ浮腫ケアも元気になるためにやるものです。なのに治療やケアのためにやりたいことを諦めてしまうのは本当にもったいないし、残念なことです。

もちろん、治療中や治療後の体調が回復していない時期や、体への負担の程度などで、すぐにはできないこともあるかもしれません。でもちょっとした工夫によって、やりたいことをできるようになる場合があります。

 

生活はお一人お一人違いますので、やりたいことをやるための工夫の仕方も、それぞれの方で変わってきます。経験豊富な専門家の力も借りながら、適切なケアでぜひご自身のやりたいことを実現していただきたいと考えています。

 

蓜島正子(はいじま まさこ)
リンパ浮腫専門リラクゼーションサロンとまり木代表
認定リンパ浮腫セラピスト、介護福祉士、作業療法士、ケアマネージャー

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