日本人のがんの罹患(りかん)率は2人に1人とも言われている。
自分自身が、あるいはご家族ががんになったら、どれくらいの治療費がかかるのか——。
この問いに対しては、ある程度の予測のもとに答えを用意しておく必要がありそうだ。
そのためには保険に関する知識も欠かせない。
このコーナーでは2回に分け、がんの治療費と、それを軽減する公的制度や保険について紹介する。
70%以上の人にとって負担の大きいがんの治療費
がん患者さんの多くが負担を感じている治療費。1,618人の回答者のうち約25%の人が、「最も高額だった1年間の治療費」について「130万円以上」と答えている。
がん治療費の負担をサポートする公的制度について情報を整理しよう
がんの治療費は、がん種やステージによって、またどのような治療を受けるかによって異なる。
「がんの治療にはお金がかかる」というのが一般的なイメージだが、必ず高額な治療費がかかるというわけではないようだ。
例えば早期の胃がんの場合、内視鏡での切除ですめば、公的医療保険により、自己負担金は8万円ぐらい。このように早期発見で治療を受けた患者さんの中には、「思ったより治療費がかからなかった」と言う人もいる。
しかし、ステージが進むと大掛かりな手術や長期の入院が必要になったり、また放射線や抗がん剤による治療も受けることになり、当然治療費もかさむ。
一番お金がかかるのは手術や入院だが、退院後に高額な薬代が必要なこともある
実際、治療はどのように行われ、どれくらいのお金がかかるのだろうか。
一般的ながん治療の流れは下の図に示した通りで、がんと診断されると、主治医やご家族との相談を経て、治療が始まるわけだが、「支払うお金」を中心に考えた場合、その次の段階である入院や手術に最も費用がかかることは言うまでもない。
下の図には主ながん治療にかかる1年間の費用も示したが、想定される費用は10万円台〜60万円台と、がんの種類やステージによって差が出る。ここで比較しているのは1年間にかかる費用なので、退院後の診療費や薬代によっては、その差はさらに広がることになる。
実際にがんを体験した人に話を聞くと、「手術や入院にお金のかかることはある程度覚悟していたが、術後の治療や経過観察にこれほどお金がかかるとは思わなかった」という意見が多い。「負担感」という点からすると、入院・手術の費用より、その後の薬代などのほうが負担に感じるようだ。
例えば、乳がんにおけるハーセプチン®や大腸がんのアバスチン®は高額な分子標的治療薬。効果のあるうちは長期間投与を続けることになり、毎月4万〜8万円の薬剤代を自己負担しなければならない。
※ハーセプチン®、アバスチン®はジェネンテック社の登録商標です。
[知っておきたい公的医療保険のサポート①]がん拠点病院の相談センターを活用しよう
検査や治療にいくらかかるのか、用意した金額で足りるのか。不安に思ったら、各地にある「がん拠点病院」の相談支援センターを訪ねてみよう。別の病院で治療を受けている患者さんの質問にも応じてくれる。
全国の相談支援センターの詳しい情報についてはこちらをチェック。
◆がん情報サービス「がん相談支援センターを探す」ページ
http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm
また、がんの種類とステージ、治療法などが分かっている人は、データを入力すると大まかな治療費が算出できるサイトも活用してみよう。
がん治療費.com http://ganchiryohi.com
支払う医療費には上限があり、一定額を超えた分は戻ってくる
公的医療保険には、国民健康保険(自営業者などが対象)、長寿医療制度(75歳以上の人が対象)、健康保険(民間企業の従業員が対象)、共済保険(公務員・教職員が対象)などがあり、一部を除き被保険者の自己負担は3割となっている。これはがん治療も同様で、先進医療などの公的医療保険ではカバーできない治療や特殊な検査を受けない限り、個人が負担するのは3割と決まっている。
がん検査にかかる費用の目安
(自己負担額ではなく、検査の総費用)
「がん治療費.com」より
ただし、検査費や治療費がある一定額を超えて高額になった場合は、一部治療費が戻ってくる場合もある。それが「高額療養費制度」で、この制度は2年前までさかのぼって適用される。
例えば、1カ月の治療費に100万円かかった場合、3割自己負担とすると30万円を負担する計算になるが、所得区分が【月額28万〜50万円(70歳未満)の人】なら、実際に支払う医療費は、次のような計算式によって、8万7430円となる。
■8万100円+(1カ月の医療費総額100万円−26万7000円)×0.01=8万7430円
※計算式は年齢、および所得区分によって変わります
病院の窓口で、いったんは3割負担分の30万円を支払うのだが、申請することで、21万2570円が「戻ってくる」。民間保険会社の大半が「手厚いがん保険」と銘打った各種商品を打ち出しているが、高額の治療費に関しては、公的医療保険により、ある程度保証されている。
また、高額療養費制度によって医療費の払い戻しを受けた月数が、1年間(直近12カ月間)で3カ月以上続いた際には、4カ月目(4回目)から、自己負担限度額がさらに引き下げられる。被保険者の所得区分が前述の人なら、1ヶ月の自己負担額上限は4万4400円になる。
「限度額適用認定証」を病院の窓口に提出しておけば、高額な医療費を一時負担しないですむ
ただし、年金生活者や低所得者の家庭では、このような制度を利用しても、治療費が家計を圧迫するケースが少なくないだろう。医療費の差額が戻ってくるのは、手続きをしてから2〜3カ月後になるからだ。
一時的負担が難しいという人には、「限度額適用認定証」の活用を勧めたい。高額な医療費が予想される場合、自己負担金の請求前にこの認定証を医療機関に提出しておくと、限度額を超えた分の治療費は請求されないことになっているのだ。この申請書は、医療機関や商工会議所、あるいはインターネットでも入手できる。
この他、末期がんで在宅治療中の患者さんには、介護保険が適用される。通常、医療保険と介護保険を同時に使うことはできないが、特例として末期がんの患者さんに限り併用が認められている。医療サービスや入浴などの訪問介護の他、ベッドなどの福祉用具も利用可能。このような制度は、経済面だけでなく、ご家族の肉体的負担も軽減してくれる。
高額な治療費の負担を軽くする方法
[知っておきたい公的医療保険のサポート②]療養費についても「戻ってくるお金」がある
公的医療保険では、「医療費」の他、「療養費」についても3割負担が適用される。「療養費」として認められるのは、例えば、乳がんの術後の患者さんを対象とした弾性スリープ、弾性ストッキング、弾性グローブなどの弾性着衣。これらは四肢のリンパ浮腫(ふしゅ)治療のために必要なものだ。申請すると3割負担が認められるので、手続きなどについて医療機関に尋ねてみよう。この他、大腸がんの術後に必要とされる、ストーマ(人工肛門や人工膀胱(ぼうこう))についても、公的医療保険が適用される。ただし、この場合は、市区町村によって個人の負担額が異なるので、最寄りの市区町村役場に問い合わせてみる必要がある。