ドクターコラム:がん治療の現場から

第1回「診療、教育、研究。これが『大学病院』の“三本柱”です」

2015年5月29日

moriyasu01こんにちは。森安史典と申します。
現在、東京の西新宿にある東京医科大学病院で消化器内科の主任教授を務めています。
今回から、さまざまな「がん」や医療技術に関して、皆さんにお話するコラムを連載することとなりました。よろしくお願いします。

第一回目ということで、まずは私が普段働いている職場でもある「大学病院」についてお話ししたいと思います。

皆さんは身近な個人医院や総合病院と大学病院の違いについて、どんな風に思われているのでしょうか。大学病院は、ドラマ『白い巨塔』などのイメージも強いかもしれませんね。

まず、単純な違いで言うと「規模」でしょうか。私がこれまで働いてきた大学病院は、床数がおよそ1000床以上。中小の一般病院や個人開業医の医院と比べると、規模が大きいのが特徴のひとつです。

また、一人の入院患者さんに関わる医師の数も多くなります。例えば東京医科大学病院では、一番上の先生や担当医、そこに研修医を含め、患者さん1人につき計4人ほどが付くことが多いです。
「教授回診」では、これら全員の先生が一斉に患者さんの病棟を回ります。1つの主治医グループで担当医は複数人いますから、教授回診は、トータルで20人以上の大人数になることもあり、「大学病院の大名行列」と言われることもあるようです(笑)。教授回診は前述した『白い巨塔』など、大学病院を舞台にした医療ドラマでも象徴的に使われています。

教授回診は大切な“教育”の場

しかし、なぜこのような大人数での「教授回診」が行われるのでしょうか?
それは、大学病院というものの特性が大きく関係しています。

個人病院や総合病院と大学病院の最大の違い、それは大学病院が「研究・教育・診療」の3つを行う場所だということです。
患者さんの治療はもとより、医師を育てていく「教育」の場である。また、病気や症例を「研究」して、新たな診断法や治療法を開発していくのも大学病院の重要な役割です。

関わる医師全員で教授回診を行うことで、患者さんの状態を担当医全員が把握することができ、円滑に治療を進めていくことができます。また、先輩医師から後進へ知識と経験を伝える教育の場ともなります。
一見大げさに見える教授回診ですが、実は非常に大切な場所でもあるのです。

まだまだあります、大学病院の仕事

ちなみに、私の今の仕事も、大きくは治療・教育・研究の3つが中心となっています。
外来で患者さんの診療を行い、入院患者さんの治療計画を立て、安全管理を行い、専門分野の研究、学生の教育……やるべきことは非常に多岐にわたっています。また、私が現在教授を務める消化器内科の医局にはおよそ100名の医師が所属しています。そして教授という立場になると、スタッフの人事も含めた管理の仕事も業務に入ってきます。ここは一般企業の管理職と同じですね。

ただ、教授というポジションは診療科全体を束ねる立場であり、個々の裁量で現場を動かしていく部分も多くあります。そう考えると、私の今のポジションは「中小企業の経営者」に近い部分があるかもしれないな、と感じています。
どうでしょうか。少し、大学病院の医師のイメージが具体的になったのではないでしょうか?
私たち医師を、身近に感じていただけるきっかけになりましたら幸いです。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo

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