ドクターコラム:がん治療の現場から

第10回「肝がん、その診断と治療について 治療編」

2015年9月21日

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前回は、肝がんの「診断」についてお話をさせていただきました。正しい診断が行われた後は、「治療」の計画を立てていきます。今回はその「治療」のお話です。

肝がん治療では「手術」と並ぶ基本?肝がんの「局所治療」とは?

肝がんの場合、治療の選択肢が比較的幅広いがんといえるでしょう。
他臓器に転移のない場合のがん治療は、一般的に患部を切除する外科手術が中心となります。しかし、肝がん治療においては、手術以外の局所治療も手術と同じくらい基本的な治療になっていると言えます。

具体的には「ラジオ波焼灼術」、「ナノナイフ」など、手術で切除することなく局所的に腫瘍、がん細胞を攻撃し、死滅させてゆく局所治療と呼ばれる治療法です。
こうした局所治療は、今挙げた2つの他にも患部を凍結させて腫瘍を殺す方法、電子レンジのようなマイクロ波により腫瘍を焼く方法、カテーテルを用いてがん組織に栄養を送る血管を塞ぎ、患部を壊死させる「肝動脈塞栓療法(TAE)」といった治療法があります。
基本的に腫瘍の大きさが3cm以内、かつ数が3個以内であればラジオ波治療などの針を使う局所治療を、それ以上であればカテーテル治療を選択するケースが多くなっています。

これらの中でも日本においてはラジオ波焼灼術が主流であり、さらに今私が注目している新技術がナノナイフ。この2つについては、次回以降また詳しくお話したいと思います。

効果が変わらないならQOLを考えて局所治療の選択を

肝がん治療においても、他のがんと同じように外科手術は第一選択肢です。
しかしながら、肝臓を切除することでQOL(Quality of Life)……生活の質がどうしても落ちてしまうという問題があることも事実です。肝硬変で、すでに健康な人の7割程に肝臓の機能が落ちている患者さんが、手術で肝臓の1/3を切除するとしましょう。その場合、肝硬変は再生能力が低いので、肝臓の機能は通常の人の半分ほどになってしまうのです。

一方、例えばラジオ波焼灼術は、臓器は切除せずに針を刺して熱で患部を焼き、がん細胞を殺傷するため、手術に比べるとずっと体に優しい治療といえます。
焼き残した細胞からがんが再発する可能性があり、治療した部分からの再発率は手術に比べてわずかに高いのですが、もともと肝がんは肝臓の別の箇所からの再発(異所再発)の割合が高いという特徴があり、5年後の再発率でみると、外科手術を行ってもラジオ波焼灼術を行っても、トータルでの再発率はどちらも“変わらない”というのが実情です。それであれば、体に優しく治療の負担が少ないほうが、患者さんにとってメリットが大きいと私は考えています。

では、手術を積極的に選択する例はあるのでしょうか?
若く体力があり肝臓の再生力が高く、かつ肝硬変の状態も比較的軽い人の場合は、外科的手術を選択することがよくあります。肝臓は再生力がある臓器で、1/3を切除しても2ヶ月程で通常の大さに戻ります。短期間でここまでの再生力がある臓器は、体の中でも肝臓のみ。ですから、上記の条件にあてはまり、かつ腫瘍が肝臓の片側に集中している場合は、外科手術で切除する方が効率的なのです。
また、肝硬変が進行している場合は、肝臓自体を新しくしないと再発率が高くなるので、肝臓そのものを取り換えてしまう「肝移植」という手術治療法を行うこともあります。

患者さんの状態に合わせた治療の選択がとても重要ですね。

moriyasu森安史典(もりやす・ふみのり)1950年、広島県生まれ。75年、京都大学医学部卒業後、倉敷中央病院、天理よろづ相談所病院、京都大学医学部附属病院で勤務。米国エール大学への留学を経て、96年、京大助教授となり、2000年より東京医科大学病院消化器内科主任教授(現職)。最先端技術を導入した肝臓疾患の診断、治療に定評がある。09年より瀬田クリニック東京非常勤医師として、がん免疫細胞治療の診療にも取り組む。趣味はゴルフ。(取材時現在)

東京医科大学病院消化器内科ホームページ
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/syoukakinaika/index.html
瀬田クリニック東京ホームページ
http://www.j-immunother.com/group/tokyo

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