ドクターコラム:がん治療の現場から

第10回「膵臓がんの治療に朗報も!消化器がん“実質臓器系”の代表的治療」

島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)

column_shimada10_1

前回は、消化器がんの中でも、食道や胃、大腸といった「管腔系」のがんについて、代表的な治療方法をご紹介しました。管腔系のがんは、早期がんであれば経口内視鏡を使った30分程度の治療、進行がんであれば外科手術によりがんを含めた臓器の切除とリンパ節郭清(切除)というのが一般的というお話しをしました。それでは、胆のうや膵臓といった「実質臓器系」のがんはどうでしょうか。

 

外科手術&抗がん剤治療中心の胆のうがん、治療が難しい膵臓がん

実質臓器系のがんは、経口内視鏡でのアプローチは不可能ですので、経口内視鏡治療という選択肢はありません。標準的には外科的開腹手術となります。

まずは胆のうがんについてお話ししましょう。胆のうは粘膜層が薄く、がん細胞が浸潤しやすいのが特徴です。また、周囲の肝臓や血管、リンパ節に食い込んでいることも多いのも特徴です。肝臓など巻き込まれた臓器があれば一緒に切除しますが、周りの血管に複雑に食い込んでいたり、がん細胞が肝臓に転移している場合はより深刻です。このような場合には、外科手術でがんを摘出することは難しいため、抗がん剤治療でがんが大きくなるのを抑制したり、転移を防ぐ方針へとシフトしていきます。

消化器がんでもっとも恐ろしいのは、膵臓(すいぞう)がんです。がんの中でも非常に進行が早く、比較的初期の段階から周囲の臓器やリンパ節に転移するケースが多いのが特徴です。年間3万人以上が発症していますが、5年間以上生存できる確率は非常に低いという状況です。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、体の奥まったところにあるため発見が遅れてしまうことや、早期から肝臓に転移していたり、大動脈にがん細胞が食い込んでいたりすることが多いため、発見した時点で外科手術が可能である割合は20~30%程度。さらに、手術ができた場合でも、5年生存率は20%という現状があります。こうした理由から、多くの患者さんは、抗がん剤などの化学療法で延命を図ることになります。

 

意外な発見!胃がん治療薬が膵臓がん治療にも効果を発揮

column_shimada10_2

膵臓がんは、手術をして、仮に画像上で確認できるがんを全て摘出できたとしても、8割方は再発するという、回復の見通しが悪いことでも知られています。しかしながら、こういった状況に手をこまねいているわけではありません。ここ10年は、手術後の抗がん剤治療で再発率を下げるための研究も進められてきました。

そこでわかったのは、既に他の治療薬として使用されていた「TS‐1®」(※)が、膵臓がんの再発予防に効果があるということです。この薬は、胃がんや大腸がんの治療薬としてはお馴染みなのですが、手術で切除した膵臓がんの再発予防の薬としても、効果が見込めることが試験によって判明したのです。

従来、膵臓がんでは「ジェムザール®」(※)という、点滴タイプの抗がん剤が使われていて、これを使うと5年生存率がやや改善するというデータはありました。しかしながら、TS-1®は飲み薬なので外来で処方でき、患者さんにとって手間がかからず、費用もジェムザール®より安価というメリットがあります。そこで、「同じか少し下くらいの5年生存率になれば」という考えで効果を比較する試験が行われたのですが、ジェムザール®を使用した場合の5年生存率が20%なのに対して、TS-1®は30%と明らかに優れているという結果に。これには私はもちろん、膵臓がんの治療に携わる医師の多くが驚きました。

もちろん、先ほど申し上げた取り、膵臓がんは手術をできないケースの方が多いので、万事が解決という話ではありませんが、がんの中でも治療法が限られ、効果もあまりふるわなかった膵臓がんにとっては大きな進歩といえます。
今後も、研究によって新たな治療法や治療薬が見つかることを期待しています。

※「TS-1®」は大鵬薬品の登録商標です。「ジェムザール®」は日本イーライリリーの登録商標です。

 

shimada_vol.1_02島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)。1984年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院第二外科入局。87~91年、同大学院医学研究科博士課程(外科系)、91年~93年、マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員。97年、千葉大学附属病院助手(第二外科)、02年、千葉大学院医学研究院講師(先端応用外科学)、08年、千葉県がんセンター主任医長(消化器外科)。08年、千葉大学医学部付属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門客員教授(消化器外科)、09年10月より、現職へ。胃がんや食道がんの専門医として評価が高い。(取材時現在)

東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/gastro_surgery/index.html

同じシリーズの他の記事一覧はこちら