がん治療と食事

吐き気や嘔吐による食欲不振は、香りを抑えたさっぱりメニューを少量ずつ!

落合由美(おちあい・ゆみ) 元・国立がん研究センター東病院  栄養管理室長

2015年12月23日

抗がん剤治療中の患者さんの6割が経験する食欲不振

当院の調査では、がん患者さんの約6割に治療中、食欲不振がみられ、その一番の理由は吐き気や嘔吐でした。主な原因は、抗がん剤治療によって血中に生じる化学物質の影響や、放射線治療による消化管細胞の破壊、また、以前の治療時の吐き気や嘔吐の経験がよみがえり、不安に襲われるなどが挙げられます。吐き気や嘔吐を繰り返すと、栄養摂取が困難になるだけでなく、水分や電解質も失われてしまいます。

注意すべき点は、「香り」と「量」。特に香りは、吐き気を誘引しやすいので、不快な香りは避けたり、冷まして香りをたたせないといった工夫が必要。ゼリーやそうめんなど、さっぱりしていて、喉越しが良く消化の良いものがおすすめです。消化が悪いものを多く摂るともたれが生じたり、胃液分泌の過剰による不快感から吐き気をもよおすこともあります。

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無理に食べようとせず「食べられるときに少量でも」が大事

また、ご家族は患者さんに良かれと思い、少しでも多く食べさせようとしがちですが、食べたくても食べられない患者さんからすれば大変つらいことです。食事時間も1日3回と決めず、患者さんが食べられるときに少量でも口にするということが大切です。気分の良いときに、1口でもつまめるようなおにぎりなどを常備しておくといいでしょう。栄養を摂らせようとしてボリュームを多くすると、見た目で食欲がなくなることもあるので、作る側も、「食べたいときに食べられる量で」というくらいの気楽さで対応しましょう。

また、食事量が少ないために食べ物からの水分が十分に補給ができなかったり、嘔吐によって水分と電解質が失われる際は、イオン飲料やスープなどや、市販の経口補水液を利用しても良いと思います。

吐き気や嘔吐の症状は、投薬後、2~3日くらいが強く、その後は少しずつおさまりますので、食べられない時期は、可能な範囲で構いません。症状が強いときは、制吐剤なども活用しながら、上手に付き合うことが大切です。

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控えめな香りで吐き気・嘔吐を抑え、口溶け良くツルンと食べられるさっぱりメニュー!

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A 梅香る冷やしもずくうどん
冷やして香りを抑え、もずくのぬめりで喉越し良く

●材料(2人分)
乾うどん1束(100g)またはゆでうどん300g だし汁…1カップ強(250mℓ) めんつゆ(3倍濃縮タイプ)…1/4カップ(50mℓ) 酒…大さじ1.5 もずく…40g オクラ…1本 油揚げ…1/3枚 卵…M玉1/2個 油…少々 ホウレンソウ…2株 花ニンジン…6枚 梅干し…中1個 カツオ節…小1パック だし汁…小さじ1/2

●作り方
1.下ごしらえをする。オクラは輪切りにし、ホウレンソウは塩ゆでして冷水に取り、根を落として4~5㎝の長さに切る。ニンジンは適度な厚さの輪切りにして花形に抜き、ゆでる。油揚げは細い千切りにして、フライパンでカリッとするまで炒る。

2.熱したフライパンに油をしき、溶いた卵を流し入れて薄焼きにし、千切りに。

3.梅干しはタネを取って果肉をたたき、カツオ節とだし汁に混ぜる。

4.1カップ強のだし汁に、めんつゆ、酒を加えて温め、もずく、オクラを加えたら、粗熱を取り、冷蔵庫で冷やす。

5.うどんをゆで、2をかけ、1~3をトッピングする。

ポイント
喉越しの良い麺類はおすすめだが、ミニおにぎりやサンドイッチ、菓子パンなどを常備しておくのもよい。香りを抑えるには冷ましたり、臭み抜きをしたりして工夫を。梅干しの爽やかな風味も食欲をそそるので、試してもらいたい。もずくやオクラ、サトイモなど、ぬめりのある食材も喉越しが良いので活用を。

 

B お酢のさっぱり塩マーボー~Wしょうが仕立て~
味付けさっぱり! 口当たりの良い豆腐料理

●材料(2人分)
豚ひき肉…40g 絹豆腐…2/3丁 長ネギ…1/3本 おろししょうが…小さじ1/2 酢・酒…各小さじ4 中華風調味料(顆粒)…小さじ2/3 塩…小さじ1/10 コショウ…少々 ゴマ油…小さじ1/4 片栗粉・水…各小さじ1 針しょうが…1/2片 青ネギ…1本

●作り方
1.下ごしらえをする。長ネギはみじん切りに、しょうがは皮をむき、おろししょうがと針しょうがにする(針しょうがは水にさらしておく)。青ネギは小口切りに、豆腐は大きめのさいの目切りにする。

2.熱したフライパンに、豚ひき肉、おろししょうが、長ネギを加えて炒めたら、豆腐、酢、酒、中華風調味料、塩、コショウを加える。

3.水溶き片栗粉でとろみをつけながら、あんを絡めてゴマ油を回し入れ、器に盛ったら、針しょうが、青ネギをあしらう。

ポイント
マーボー豆腐はニンニクやニラなど香りの強い野菜や香辛料を入れず、酢と塩でさっぱり風味に。例えば、酢の物、酢みそ和え、甘酢和えなどのように、酢を使うと食べやすくなるのでぜひ酢の活用を。また、しょうがをはじめ、レモン、ミョウガ、ミツバといったさっぱりした食材は食欲を増進させるのでおすすめ。

 

C ふっくら甘納豆
圧力鍋で時短調理が可能なおすすめ常備菜

●材料(2人分)
金時豆(乾燥)…50g 水…3/4カップ 砂糖…大さじ3~4 塩…小さじ1/6 しょうゆ…小さじ1/3 グラニュー糖…小さじ2

●作り方
1.ひと晩水につけておいた金時豆を圧力鍋に入れ、さっとゆでてザルにあけ、あくを取る。

2.再度圧力鍋にゆでた金時豆、水、砂糖、塩、しょうゆを加えて加熱。蒸気が出るまで強火にし、その後弱火にして10分ほど煮る。

3.火から下ろして自然減圧後、ふたを開ける。再度火にかけ、弱火で煮含める。

4.3をバットに広げ、粗熱を取って冷蔵庫で冷やしたら、グラニュー糖をまぶす。

ポイント
いつでもすぐ食べられるよう、少量でも高栄養な常備菜を作っておくと便利。圧力鍋や電子レンジを活用すると、調理時間が短縮される他、調理中のにおいも抑えられる。

 

D ふわふわレモンスフレ
口溶け良く食べやすい高栄養デザート

●材料(3人分)
卵…M玉2個 砂糖…大さじ3 牛乳…1/2カップ レモン果汁…小さじ1.5(レモン1/4個分) レモンの皮(おろし)…小さじ1 薄力粉…大さじ3 バター・お好みの果物…適量 グラニュー糖…小さじ1.5

●作り方
1.卵を黄身と白身に分け、各々ボウルに入れる。黄身に砂糖の半分を入れ、泡立て器ですり混ぜ、ふるった薄力粉を加えてへらでさっくり混ぜる。

2.温めた牛乳の1/3量を1の黄身のボウルに入れてなじませたら、残りの牛乳、レモン汁、レモンの皮を加えて混ぜる。

3.卵白をしっかり泡立て、残りの砂糖を加えてメレンゲにする。

4.2にメレンゲを3回くらいに分けて加え、泡を消さないようさっくり混ぜる。

5.型に溶かしバターを薄く塗り、グラニュー糖を均一にまぶしたら、4を流し入れ、170度に予熱しておいたオーブンで約10分焼く。お好みで果物を添える。

ポイント
軽やかな口溶けで食べやすいスフレはデザートにおすすめ。果物やアイスクリームなど、香りが気にならず、さっぱりしたものは吐き気にはいいが、冷たいものを摂り過ぎると、消化器症状に影響する場合もあるので摂り過ぎには注意。みたらしあんをからめた白玉団子や、ゼリー、プリンなども食べやすい。

 

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調理の工夫としては、冷まして香りを抑える他、喉越し、口当たりの良さも重要。肉は片栗粉をはたいてから火を入れると、臭いが抑えられたり、ツルッとして食べやすくなる。また、繊維の多い野菜もポタージュスープにすれば摂りやすい。

 

 

柏の葉料理教室 開催中!
国立がん研究センター東病院栄養管理室(千葉県柏市)主催で、がん治療に伴う諸症状に悩む患者さんやその家族を対象とした「柏の葉料理教室」が開催されています。
http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/seminar/about_cooking.html
開催日:原則として第2・4水曜日
開催時間:12:00〜14:00 ※11:50〜受付開始
参加費:材料費として600円
申し込み・問い合わせ:国立がん研究センター東病院 栄養管理室
TEL:04-7134-6909(2日前までに)

落合由美 元・国立がん研究センター東病院栄養管理室長

おちあい・ゆみ●国立東京第二病院・栄養士、国立がんセンター中央病院・栄養係長などを経て、2008年より2015年3月まで東病院栄養管理室長。近刊に『がん患者さんのための国がん東病院レシピ』(法研)がある。(取材時現在)

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