がんと免疫

がん免疫療法とは

2017年2月9日/2019年5月1日更新

がん免疫療法は「免疫」の仕組みを利用したがん治療法

がん免疫療法とは、私たちの体に備わっている「免疫」という仕組みを活用した治療法の総称です。

免疫療法のうち、がんの作用によって弱められた免疫本来の働きを復活させる「免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬)」は、ニボルマブ(製品名オプジーボ)が2014年にはじめて皮膚がん(メラノーマ)の治療薬として承認されたことを皮切りに肺がん、腎臓がん、胃がんなどでも適用が拡大。食道がん、大腸がん、肝臓がん、卵巣がんなど幅広いがんで開発が進められており、その有用性が広く認知されています。

また、がんを攻撃する免疫細胞を遺伝子操作で作用を強化した、CAR-T(カーティー)細胞療法といった免疫療法も登場し、血液がんの治療法として2019年3月に承認されています。

再発や転移していないがんの治療方法としては、手術や放射線治療などの「局所治療」が有効ですが、他の臓器等に転移し、拡がったがんに対しては、抗がん剤や分子標的薬のような全身に作用する治療法が適用になります。がん免疫療法も全身に作用する治療です。

 

病原菌やがん細胞を排除する、免疫の力

「免疫」とは、ウイルスや細菌などの外敵から自分自身を守るはたらきのことを言いますが、さらに免疫は、「がん細胞」も排除することが分かっています。がん細胞は、正常な自分の細胞の遺伝子が傷つくことで生まれます。人の体の中では、毎日毎日がん細胞が生まれ、それを「免疫」の力、つまり白血球中に含まれる免疫細胞が排除しているのです。

 

免疫チェックポイント阻害薬の作用・種類

しかし、がん細胞は自分が生き延びるために、免疫細胞からの攻撃を逃れようとします。PD-L1というタンパク質を細胞表面に出し、これが免疫細胞のほうにあるPD-1という物質に結合すると、免疫細胞がうまく働かなくなってしまいます。このPD-1とPD-L1の間に入って2つが結合しないようにするのが、抗PD-1抗体薬や抗PD-L1抗体薬です。この薬の作用は、がん細胞が免疫細胞の働きを邪魔しないようにすることです。

国内で使われている(承認されている)免疫チェックポイント阻害薬※2019年5月時点

■抗PD-1抗体薬
ニボルマブ(製品名オプジーボ)悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がんなど
ペムブロリズマブ(製品名キイトルーダ)悪性黒色腫、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、尿路上皮がん、MSI-High固形がんなど

■抗PD-L1抗体薬
アベルマブ(製品名バベンチオ)メルケル細胞がん
アテゾリズマブ(製品名テセントリク)非小細胞肺がん
デュルバルマブ(製品名イミフィンジ)非小細胞肺がん

■抗CTLA-4抗体薬

イピリムマブ(製品名ヤーボイ)悪性黒色腫

 

免疫チェックポイント阻害薬は、本来持つ免疫の働きを正常に機能させるための免疫療法と言えます。

 [関連記事] 免疫チェックポイント阻害薬 〜免疫を抑制するがん細胞との闘い

 

CAR-T細胞療法

2019年3月に日本ではじめて承認された、遺伝子改変T細胞療法<CAR-T(カーティー)細胞療法>もがん免疫療法のひとつです。この治療は、患者さんの免疫細胞(T細胞)を人工的に強化して、がんへの攻撃力を高める治療法です。

私たちの体にある様々な免疫細胞のうち、特にがん細胞を直接攻撃するのがT細胞と呼ばれるリンパ球です。

がん細胞はその表面に、がん特有の目印を出していることが多くあります。T細胞はその目印を見つけ、標的にして攻撃を行いますが、患者さんの体内ではこの仕組みがうまく働いていないことがあります。

CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞に遺伝子改変技術を用いて、がん細胞の目印を認識するアンテナ(CAR)をくっつけたうえで増殖し、再び体内に戻すことで、標的になるがん細胞への攻撃力を強化する治療です。

[関連記事] 治療開始は年内?国内初の遺伝子改変がん免疫療法「CAR-T細胞療法」

 

これら以外にも、さまざまなタイプのがん免疫療法が世界中で研究・開発されており、手術、放射線治療、抗がん剤といったこれまでの3大療法に続く、第4の治療の柱となっています。