注目の治療・研究 がんと免疫

治療開始は年内?国内初の遺伝子改変がん免疫療法「CAR-T細胞療法」

監修:神垣隆(かみがき・たかし)順天堂大学大学院 次世代細胞・免疫治療学 特任教授

2019年4月23日

今年2月に女子競泳選手の池江璃花子さんが自身の白血病を公表したことに続き、歌手の岡村孝子さんも急性白血病と診断され治療に入ることが4月22日に公表されました。池江さんは現在(19年4月時点)も懸命の治療を続けており、日本中が1日も早い快復を願っています。
こうした中、白血病の最新治療として「CAR-T(カーティー)細胞療法」という新たな治療が今年3月に承認され、国内初の遺伝子改変技術を利用したがん免疫療法として注目を浴びています。

 

血液のがん「白血病」とは

血液のがん」と言われる白血病は、血液のもとになる細胞が、がん化して増殖する病気。国内では、年間約1万4,000人が白血病と診断されます(国立がん研究センターがん統計 2018年のがん統計予測より)。

20歳未満のがんとしては最も多く、池江璃花子さんも18歳で発症しています。若い人に多いという特徴がクローズアップされることが多いがんですが、年代ごとの発症者数をみると60歳以上の高齢者が7割を占めています。

血液を構成する血液細胞は、その素となる造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)から作られます。造血幹細胞は、大きく骨髄系幹細胞(赤血球、血小板、白血球の一種である顆粒球(かりゅうきゅう)や単球になる)と、リンパ系幹細胞(B細胞、T細胞、NK細胞などのリンパ球になる)に分かれます。白血病は、この骨髄系の細胞から発生する「骨髄性」と、リンパ球系の細胞から発生する「リンパ性」とに分けられ、さらにそれぞれ、病気の進行が早い「急性」とゆっくりと病状が進む「慢性」の計4種類に大別されています。

遺伝子技術を使った免疫療法、CAR-T細胞療法が国内で承認

こうした白血病の一部に対する新たな治療法として、2019年3月、遺伝子改変T細胞療法<CAR-T(カーティー)細胞療法>が日本で初めて承認されました。この治療は、患者さんの免疫細胞(T細胞)を人工的に強化して、がんへの攻撃力を高める、これまでになかった治療法です。

私たちの体にはもともと、がん細胞を攻撃・排除しようとする「免疫」というシステムが備わっています。免疫は、血液中の様々な免疫細胞が連携して働きますが、特にがん細胞を直接攻撃するのがT細胞と呼ばれるリンパ球のひとつです。

T細胞は通常、がんの目印を見つけ、標的にして攻撃を行いますが、患者さんの体内ではこの仕組みがうまく働いていないことがあります。CAR-T細胞療法は、患者さんから採取したT細胞に遺伝子改変を行い、がん細胞の目印を認識するアンテナ(キメラ抗原受容体:Chimeric Antigen Receptor、CAR)を人工的にくっつけたうえで増やし、再び体内に戻すことで、標的になるがん細胞への攻撃力を強化する治療です。

患者さんの体から取り出したT細胞に、遺伝子改変技術を用いて、白血病細胞の表面に出ているCD19という目印だけを認識して攻撃するアンテナ(キメラ抗原受容体:Chimeric Antigen Receptor、CAR)をくっつけ、人工的なT細胞(CAR-T細胞)を作る。それを大幅に増殖して体内に戻すことで、CD19を標的にCAR-T細胞が白血病細胞を攻撃する。

 

スイスのノバルティスファーマ社が開発したCAR-T細胞療法「キムリア®」は、白血病細胞表面のCD19という目印を見つけて攻撃するように作られており、高い効果が報告されています。2018年には米国、ヨーロッパで承認され、この度日本でも、標準的な治療で効果がなかった白血病の一部を対象として承認されました。

CAR-T細胞療法(2019年3月承認)の対象となるがん

CD19は、がん細胞(白血病細胞)などの表面に出ている、T細胞の標的となるタンパク質。

 

米国では5,000万円の治療費。日本では5月にも保険治療に。

CAR-T細胞療法はこれまでになかった画期的な治療である一方で、患者さん一人あたりの治療費は、米国で約5,000万円と非常に高額となっています。近年、バイオテクノロジーの進歩で、遺伝子改変した細胞を増やすなどして製造する医薬品や治療法が増えていますが、従来の薬に比べて製造工程が複雑で特殊な設備も必要となるため、製造コストが高額になります。

2018年にノーベル賞受賞で話題となった免疫チェックポイント阻害薬オプジーボも、2014年に承認された当初、患者さん一人が1年間使用したときの薬剤費が3,500万円以上になることが大きく取り上げられました。日本では公的保険制度により、高額な治療でも患者さんの自己負担は一定に抑えられますが、代わりに負担する国の医療財政への影響が問題視され、オプジーボの価格は、肺がんや胃がんなど適応が広がるに連れて大きく引き下げられています。

今年3月に承認されたCAR-T細胞療法の日本での治療費については近々決定され、年内には保険診療としてる治療が受けられるようになる見込みです。米国同様、数千万円の治療費(※1)になることが予想されていますが、1回のみの治療で済むこと、また対象となる患者さんが年間で最大200〜300人程度と少数であることが、オプジーボとは大きく違う点です。

高い効果を示すCAR-T細胞療法ですが、単独での治療では、一度は寛解(がん細胞が一旦検出されなくなる)になっても、その後再発する例があることもわかってきました。また。CAR-T細胞療法に関連したサイトカイン放出症候群や重篤な神経障害などの副作用も報告されており、こうした課題を克服するための研究も進められているところです。

※1:治療費の総額。患者さんの自己負担額は、公的保険制度・高額療養費制度等によって大きく抑えられます。

神垣 隆
順天堂大学大学院 次世代細胞・免疫治療学 特任教授
かみがき・たかし●1987年、神戸大学医学部卒業。神戸大学医学部附属病院食堂胃腸外科等を経て、2010年、瀬田クリニックグループ臨床研究・治験センター長就任。2017年より順天堂大学大学院医学研究科 次世代細胞・免疫治療学講座特任教授。日本再生医療学会 再生医療認定医、日本消化器病学会 専門医など。(公開時現在)