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保険適用拡大で利用しやすくなった重粒子線・陽子線治療

2015年5月16日/2018年8月1日更新

文・編集部

放射線治療は、正常な細胞に比べて、がん細胞が放射線に弱い性質を利用した治療法です。しかしながら、正常細胞も、放射線があたればダメージを受けることは免れられず、様々な治療の副作用が生じます。そこで放射線治療は、がん細胞に大きなダメージを与える一方、正常な細胞にはできる限りダメージを与えないことを考えて進歩してきました。

ここで紹介する2つの治療法「粒子線治療(重粒子線治療、陽子線治療)」と「定位放射線治療・強度変調放射線治療」は、治療中は痛みがなく傷跡も残らない、治療後の社会復帰が早く、高齢者にも適用しやすいといった放射線治療の特徴を活かしつつ、正常細胞へのダメージ極力減らすことが期待できる治療法です。

特に重粒子線治療と陽子線治療は、2018年4月に前立腺がんや頭頸部がんなどで保険適用が拡大したことで治療費が大幅に下がり、患者さんにとって利用しやすくなりました。

 

粒子線治療(陽子線治療/重粒子線治療)

粒子線とは

粒子線とは、放射線のうち電子より重いものの総称で、この粒子線を使った放射線治療のことを、特に「粒子線治療」と呼びます。
実用化されている粒子線治療には、水素の原子核ビームである陽子線を利用した「陽子線治療」と、それより重い炭素線イオンを使う「重粒子線治療」があります。重い粒子をシンクロトロンやサイクロトロンとよばれる加速器で光速の70%近くまで加速し、超高速でがん細胞にぶつけてダメージを与えるハイテク治療です。

粒子線(重粒子線・陽子線)治療の特徴

一般の放射線治療であるエックス線やγ(ガンマ)線を患者さんに照射すると、体の表面近くでエネルギーが最大となり、体の深いところに入るにしたがって徐々に力が小さくなります。これでは、体の奥にあるがん細胞にはダメージが小さく、表面の正常な細胞にダメージを大きく与えてしまいます。

陽子線治療や重粒子線治療では、この欠点を補うためがん細胞の部分でエネルギーを最大にし、他の正常細胞にあまり影響を与えないような工夫や、がん細胞の形状にあわせてビームを当てることで正常細胞にダメージを与えないような工夫がなされています。

また、一般的な放射線治療よりもエネルギー量が強いため、従来、放射線治療では治療効果が期待しにくかったがんの治療にも使用されています。

粒子線治療の治療費(2018年8月現在)

重粒子線治療と陽子線治療は、最近まで公的保険の適用になっておらず、先進医療として治療を受けるケースがほとんどでした。その場合、300万円前後の自己負担が必要でしたが、現在、以下のがんで保険診療として治療を受けられるようになりました。

【重粒子線治療の保険診療】
●骨軟部がん(切除非適応の骨軟部腫瘍):2016年4月〜
●前立腺がん:2018年4月〜
●頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く):2018年4月〜

【陽子線治療の保険診療】
●小児がん(限局性の固形悪性腫瘍に限る):2016年4月〜
●前立腺がん(限局性及び局所進行性前立腺がん。転移を有するものを除く):2018年4月〜
●頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く):2018年4月〜
●骨軟部がん(手術による根治的な治療が困難な骨軟部腫瘍):2018年4月〜

こうしたがんでは、自己負担額は50〜70万円程度(3割負担の場合)となりますが、さらに日本では高額療養費制度が利用できるため、実質的な自己負担額は数万円〜10数万円程度となります。

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それ以外のがんについては、まだ保険適用となっておらず、先進医療に認められた施設で治療を受ける場合、先進医療(技術料)の自己負担分として300万円前後の費用がかかります。
(民間医療保険の先進医療特約に加入していれば、保険金が利用できます。詳しくはご加入の保険会社にお問い合わせください)

粒子線治療が受けられる治療施設

日本で粒子線治療を受けることができるのは、以下の19施設です(2018年8月現在)。これらの施設をすべてあわせると、年間で5,000人弱の患者さんが粒子線治療を受けています(2015年の登録患者数)。

重粒子線(炭素イオン線)治療施設

  • 群馬大学医学部附属病院 重粒子線医学研究センター(群馬県前橋市)
  • 放射線医学総合研究所(千葉県千葉市)
  • 神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設(神奈川県横浜市)
  • 大阪重粒子線センター(大阪府大阪市)
  • 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)※陽子線治療も可能
  • 九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀県鳥栖市)

陽子線治療施設

  • 北海道大学病院 陽子線治療センター(北海道札幌市)
  • 札幌禎心会病院 陽子線治療センター(北海道札幌市)
  • 南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)
  • 筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市)
  • 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)
  • 相澤病院 陽子線治療センター(長野県松本市)
  • 静岡県立静岡がんセンター(静岡県駿東郡)
  • 名古屋陽子線治療センター(愛知県名古屋市)
  • 大阪陽子線クリニック(大阪府大阪市)
  • 福井県立病院 陽子線がん治療センター(福井県福井市)
  • 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)※重粒子線治療も可能
  • 兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター(兵庫県神戸市)
  • 岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター(岡山県津山市)
  • メディポリス国際陽子線治療センター(鹿児島県指宿市)

定位放射線治療/強度変調放射線治療(IMRT アイ・エム・アール・ティー)

強度変調放射線治療(IMRT)の特徴

houshasen放射腺治療の基本は正常な細胞のダメージを極力少なくする一方、がん細胞には強いダメージを与えることです。
右図は、放射腺を照射する装置が上から反時計回りに動きながら、3方向よりがんにダメージを与えています。

通常当てる放射線の強さを100とした場合、3方向から分散してそれぞれ33の弱い放射線を照射すると、がん病変には3箇所から放射した合計の100の放射線が当たりますが、がん病変の手前にある正常な細胞が浴びる放射線は33ですみ、正常細胞だけダメージを抑えることができます。

このように、少しずつ多くの角度から放射線を照射すると、正常な細胞のダメージを小さくし、がん細胞にだけ大きなダメージを与えることができます。これが、定位放射線療法と呼ばれる放射線治療です。

定位放射線治療をさらに進化させ、放射線を照射する装置から右半分には強く、左半分には弱くといったように、部分的に放射線の強さを変えて照射することも可能です。コンピューターを駆使して、網の目のように細分化されたマス目ごとに放射線量を変化させ、多くの角度から照射することでがん細胞だけに照射する放射線量を増やし、正常細胞へのダメージを最小にする工夫をしたものが、強度変調放射線治療(IMRT)です。

総量として全身に浴びる放射線の量が増えるため、他のがんの誘発を招くリスクが高くなるという指摘もありますが、重粒子線治療同様、患者さんの肉体的負担が少ない治療方法です。

強度変調放射線治療(IMRT)の治療費

治療費に関しては、2010年4月より、特定の部位にとどまっている固形がんすべてを対象として保険が適用されました。しかし、保険が適用されるといっても治療費総額としては高額な医療となりますので、治療費を抑えるためには高額療養費制度を利用することが必要です。

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強度変調放射線治療(IMRT)を受けられる治療施設

強度変調放射線治療を行うには、日本放射線腫瘍学会認定の常勤専門医がいて、専用の機器が備わった施設でなければなりません。詳しくは日本放射線腫瘍学会のホームページなどで最寄りの専門施設を確認し、本治療を行っているかどうか各施設に直接ご確認ください。