乳癌・子宮癌・卵巣癌の治療

より自然で安全な乳房再建を目指す〜脂肪組織由来幹細胞の再生力を利用〜

脂肪組織由来幹細胞で柔らかな乳房を再建

どのような治療かというと――患者さんの腹部や臀部(でんぶ)から採取した50〜300ミリリットルの皮下脂肪の半分を「自動細胞処理装置」にかけて遠心分離し、脂肪組織由来幹細胞を抽出する。残り半分の脂肪組織を洗浄し、抽出した脂肪幹細胞と混合する。それを患者さんの胸の陥凹(かんおう)部分に注入して移植。傷口は脂肪吸引の傷と注入部の小さな傷のみで、手術は半日程度ですむ。術後数日もすれば退院できる。

①移植用の脂肪細胞は、患者さんの腹部、大腿部(だいたいぶ)、臀部(でんぶ)のいずれから採取。皮膚を数カ所1〜2㎝切開し、ニューレ(体液の吸引や薬液の注入などに用いる管)を挿入して皮下脂肪を吸引し、皮膚切開線を縫合する。 ②吸引した脂肪細胞を「自動細胞処理装置」に入れて洗浄し、半分を遠心処理して脂肪組織由来幹細胞を採取する。 ③濃縮した脂肪組織由来幹細胞と必要量の脂肪細胞を混合する。 ④患者さんの乳房の陥凹部分に注射器で数カ所刺して注入する。 (鳥取大学医学部附属病院ホームページより)
①移植用の脂肪細胞は、患者さんの腹部、大腿部(だいたいぶ)、臀部(でんぶ)のいずれから採取。皮膚を数カ所1〜2㎝切開し、ニューレ(体液の吸引や薬液の注入などに用いる管)を挿入して皮下脂肪を吸引し、皮膚切開線を縫合する。
②吸引した脂肪細胞を「自動細胞処理装置」に入れて洗浄し、半分を遠心処理して脂肪組織由来幹細胞を採取する。
③濃縮した脂肪組織由来幹細胞と必要量の脂肪細胞を混合する。
④患者さんの乳房の陥凹部分に注射器で数カ所刺して注入する。
(鳥取大学医学部附属病院ホームページより)

 

治療後の1年間は3カ月おきに経過観察を行った。下の写真のように治療希望者のほとんどが、治療前は乳房が萎縮して変形し、乳頭が傾いていた。この症例では脂肪組織由来幹細胞と脂肪細胞の混合液を200ミリリットル注入。治療後は乳頭の傾きが緩和され、正常な状態に近づいている。

これまでにも、脂肪吸引した脂肪を単独で注入する方法が行われているが、注入した組織が残り続ける割合(生着率)が低く、効果が不十分なうえ、石灰化や嚢胞(のうほう)形成などのリスクがあった。しかし、今回の鳥取大学の方法では、血管など組織の再生を助ける幹細胞を多く含む脂肪組織由来幹細胞を使用する点が大きく異なる。「脂肪組織由来幹細胞を酸素の少ない環境に注入すると、サイトカインという物質を大量に放出して新しい血管を作り、生きようとする。脂肪の生着率が高く、柔らかい乳房が再建できるのはそのためと考えられる」と言う。

 

自己皮下脂肪組識由来細胞移植による乳房再建の1 例(40歳代)

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術前の写真を見ると、左乳房の上部がスプーンですくったようにえぐれ、乳頭が外側に傾いている。脂肪組織由来幹細胞と脂肪細胞を注入した術後1カ月は形が維持されているが、乳房は硬いという。3カ月目は脂肪細胞が吸収されてやや小さくなっているものの、乳房の柔らかさが戻り、その後は形が安定している。乳房の体積比率を比較したMRIの画像(下)では脂肪細胞が生着し、陥凹が改善されていることがよく分かる。
術前の写真を見ると、左乳房の上部がスプーンですくったようにえぐれ、乳頭が外側に傾いている。脂肪組織由来幹細胞と脂肪細胞を注入した術後1カ月は形が維持されているが、乳房は硬いという。3カ月目は脂肪細胞が吸収されてやや小さくなっているものの、乳房の柔らかさが戻り、その後は形が安定している。乳房の体積比率を比較したMRIの画像(下)では脂肪細胞が生着し、陥凹が改善されていることがよく分かる。

 

臨床研究では、拒絶反応や感染、がん化は認められず、今回の研究の第一目的である安全性も確認された。何よりも朗報は、石灰化がなく再建した乳房が柔らかいことだ。治療した患者さんたちも「乳房の形が良くなってうれしい。柔らかく、痛みや違和感もありません。着たい服も着られます」と語る。

「今後は臨床研究を多施設で実施し、症例を増やしたい」と言う中山准教授。安全性、有効性がさらに確認され、一日も早い保険適用が望まれている。

 

再建した乳房に求めるもの
乳がんの患者さん285人を対象にしたアンケート。重きを置く項目上位3つを選び、重要と思われるものから順に1、2、3 の数字を振ってもらった。1には3点、2は2点、3は1点の点数を掛けて足したものを総得点とし、得点の高い順に並べた。乳がんの手術後、「温泉やジムに行けなくなった」「おしゃれができなくなった」と見た目を気にする人は少なくない。乳房再建はそうした人たちが自信を取り戻すために重要な治療法といえる。
(NPO法人 エンパワリング ブレストキャンサー 2013年度『乳房再建に関するアンケート調査』結果報告書より)
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vol5_iryokenkyu02中山 敏(なかやま・びん)
1988年に鳥取大学医学部卒業後、名古屋大学医学部附属病院形成外科、愛知県がんセンター頭頸部外科を経て、鳥取大学医学部附属病院形成外科准教授及び診療教授に。2012年には同附属病院次世代高度医療推進センター副センター長に就任し、脂肪組織由来幹細胞を用いた再生医療の臨床応用を目指している。(取材時現在)
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