死亡率が最も高い肺がんですが、治療法は劇的に進歩しましたので納得いくまで相談してください。
日本では、胸部レントゲンの正面写真と側面写真、喀痰の細胞診による肺がん検診が行われてきた。だが、海外では、レントゲンでの胸部単純写真では、肺がんの早期発見はできない、という研究結果が出ていた。つまり、日本の肺がん検診は、早期発見に結びつかなかったと言える。肺がんの早期発見には、「低線量CT」による検診こそが有効なのだ。
「2年前ですが、医学界の中で最も権威のある『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』誌に『低線量CT検診』は、肺がんによる死亡率を減らす、というデータが掲載され、これが公的に認められました。これは非常にセンセーショナルだったと思います。日本でも広まって行くと思いますが、保険診療には入らないCT検診を、膨張し続ける医療費の中で、実際にどのようにして広く浸透させて行くか。ここが議論の分かれるところ」という現実の問題がある。
最近の傾向として、非小細胞がんの一種である腺がんが、煙草を吸わない若い女性のあいだで増えているという。
「腺がんの女性には、日本で初めて承認された分子標的薬イレッサ®が、よく効くということもわかってきました」
肺がんの薬として知られるイレッサ®だが、これには効く人と、効かない人がいる。それは異変を持つ遺伝子によるものだという。
「がんを引き起こす重要な遺伝子である上皮成長因子受容体(EGFR)のある部分に遺伝子の異変があると、その患者にはイレッサ®の効果が期待できるということが判明したのです」
現在の最新の薬物療法は、まずEGFR遺伝子変異検査を行い、イレッサ®を投与するのか、抗がん剤か、事前に調べてから始める。
高橋は、「後輩を育て、教室を運営する」という管理職の役割も担う。
「私よりも、優れた人材を育てることが重要です」
熱血漢という表現がぴったりの高橋は、研究室の若い医師との絆をとても大切にしている。仕事に没頭する日々のため、必然的に家族との時間が犠牲になる。
「二人の娘の教育を含めて、家のことはすべて妻まかせですが、妻も娘も、私のことは理解してくれていると思っています。妻は私より冷静でいて、とても優しい。そんなところに惹かれました」
高橋は進行した肺がんの患者に対するイレッサ®と免疫細胞治療との併用療法など新しい治療法の開発にも積極的に取り組んでいる。
「エビデンスが足りないからと、懐疑的な医師もいますが、私は、分からないことを『けしからん』といってはいけないと思っています。分からないからこそ、それを明らかにしなければならない。高度医療に携わる大学や医療機関が共同で検証・臨床結果を積み上げ、保険診療のもとで行える標準治療にすべきです」
「優れた医師とは、優れた研究者であると同時に優れた臨床医である」というのが、高橋の目指す医師のあり方。可能性を見すえ、未知の領域へ挑む――。その情熱と探究心が、がん治療をさらに進歩させるのである。
(敬称略)
※イレッサ®はアストラゼネカ ユーケイ リミテッド社の登録商標です。