がん治療と食事

【胃・食道がん治療時の食事・レシピ】つかえる、むせる、飲み込みにくいを調理の工夫で改善!

落合由美(おちあい・ゆみ) 国立がん研究センター東病院栄養管理室長

2015年8月19日

食道がんや胃がんなどの手術後は消化管の形や機能が変化したり、腫れたり、またマヒが残るなどして食事が飲み込みにくくなることがあります。さらに、術後化学療法により、口腔内炎症や唾液腺障害を併発すると飲み込みにくさに拍車がかかります。がん治療の副作用で飲み込みにくい場合の食事の工夫とレシピについてお伝えします。

 

胃がん・食道がん手術後の回復期の食事

胃がんや食道がんなど消化管のがんの場合、手術後の食事は、通常の量の4分の1程度から始め、徐々に元に戻していきます。1回の食事量が少なくても、間食で補ったり、少量でも栄養価の高い食材を選んだり、水分をこまめに摂ることが大切です。
また、よくかんでゆっくり食べる、食後は上体を起こしたまま、しばらくゆったりと過ごすなど、食べ方への配慮も重要です。術式や回復の進み方には個人差がありますから、焦らず、医療関係者と相談しながら回復に努めるようにしましょう。

食事をするときの注意点
①よくかんで、ゆっくり食べる。
②口内や喉に食べ物を残さないためにしっかりと飲み込む。
③1食の量が少なくなる場合は間食で補う。
④少量でも栄養価の高いものを選んで食べる。
⑤水分は不足しないように、合間合間でこまめに摂る。
⑥食後はすぐに横にならず、ゆったりと過ごす。(横になると逆流感、胸やけの原因に)

 

飲み込みやすくするための調理の工夫

人はゼリーやヨーグルト状の形態がのどを通りやすいと言われています。これらは表面がツルンとしていて水分が多く、全体がまとまっているので、形を変えながら、のどの狭い部分を通過することができます。患者さんが、手術や抗がん剤治療で食事がのどにつかえやすかったり、飲み込みにくいと感じる場合はこうした調理上の工夫で、食べやすくなる場合があります。

なめらかで飲み込みやすい形状にするためには、食材を軟らかく、小さく、歯ですりつぶしやすくすること。具体的には、野菜は皮をむいて、薄く細かく切る。肉はたたいて筋を断ち、ショウガ汁などにつけて軟らかくする。圧力鍋を活用しても良いし、たれ、あん、和え衣などで食材をまとめ、しっとりなめらかに仕上げるといった工夫もしてみると良いでしょう。

のどを通りやすくするための調理のポイント

①軟らかく調理する。 ( 細かく切る、煮込む、 ゆでる、蒸すなど )
②適度な水分を含ませる。
③咀そ嚼しゃくが難しい場合などは、 ミキサーやフードプロセッ サーで、細かく刻んだ状態、 またはペースト状にする。
④水溶き片栗粉やゼラチン、 増粘剤などでとろみを付け、 食材がバラけるのを防ぐ。

 

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メニュー・レシピ

ここでは、あんを使ったり、食材を柔らかく調理することで飲み込みやすくしたメニュー例をご紹介します。

 

「つかえる、むせる、飲み込みにくい」は調理の工夫で改善!
しっとり、なめらかに仕上げた喉越しの良いメニュー

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A 白身魚のかぶら蒸し
蒸し上げた魚にあんをからめてさらに食べやすく

●材料(2人分)
白身魚…2切れ 塩…2つまみ 酒…小さじ2 カブ…中1個 卵白…M玉1/3個分 だし汁…100mℓ しょうゆ…小さじ2 塩…小さじ1/10 みりん、酒…各小さじ1 片栗粉、水…各小さじ2 ホウレンソウ…3株 ニンジン…1/10本

●作り方
1.白身魚は塩と酒を振りかけておく。カブは皮をむき、すりおろしたらザルで水気を軽く切る。ホウレンソウは根元を切り、茎と葉に切り分け、さらに茎を半分に切る。ニンジンは薄切りにして花型に抜く。

2.卵白は塩1つまみ(分量外)を入れ、角が立つまで泡立てたら、おろしたカブに混ぜる。

3.蒸し器にホウレンソウの茎と葉を敷き、上に白身魚を置いたら2をのばし、その上にニンジンを添える。中火の蒸し器で10分蒸す。

4.鍋にだし汁を温め、しょうゆ、塩、みりん、酒で味付けし、水溶き片栗粉でとろみを付ける。器に3を盛り4をかける。

ポイント
蒸し料理で魚を軟らかくさせ、すりおろした淡雪風のカブや、あんでなめらかに調理。蒸し料理は、ふっくら軟らかく仕上がります。

 

B 千切り野菜のきんぴら風炒め煮
ゴボウの代わりに軟らかいダイコンを使用

●材料(2人分)
ダイコン…中太3cm ニンジン…1/6本 キヌサヤ…4枚 ゴマ油…小さじ1 顆粒だし…小さじ1/10 水…大さじ4 砂糖、しょうゆ、酒…各小さじ1

●作り方
1.ダイコン、ニンジンは皮をむき、千切りにする。キヌサヤは筋を取り除き、縦に千切りする。

2.フライパンにゴマ油を熱し、ダイコン、ニンジンを炒めたら、水、顆粒だし、砂糖、しょうゆ、酒を加えて煮る。

3.2にキヌサヤを加え、具材が軟らかく、煮汁が少なくなってきたら火を止め、器に盛る。

ポイント
繊維の硬いゴボウの代わりに、加熱によって軟らかくなるダイコンのような食材を選択。千切りにすることで、素早く火が通るうえ、炒めて煮ることで、より軟らかくなって食べやすさもアップ。

 

C 軟らかご飯
飲み込みやすい軟らかさに

洗米後、1時間程度水につけ、水分を多めにして軟らかく炊く。

 

D とろろ汁
素材がまとまってツルンと喉を通るように

長イモ150g、だし汁150mℓ、酒、みりん、しょうゆ各小さじ1をミキサーにかけ、なめらかになったら器に盛り、青のりを散らす。

ポイント
みそ汁のように、具材と汁が喉を通過するときにバラバラになるようなものは意外と飲み込みにくい。汁物の場合、とろろ汁のような、全体にまとまりがあるものがおすすめ。ただし、とろろの量が多過ぎないように注意。

 

E ゴマ豆腐 黄身だれかけ
練りゴマを使って調理をより手軽に

鍋に葛粉大さじ1.5、練りゴマ小さじ2、塩2つまみ、だし汁120mℓを少しずつ加えて溶きのばし、かき混ぜながら加熱する。ふっくらつやが出てきたら粗熱を取って冷やし固める。別の鍋に卵黄1/3個分、みそ小さじ2/3、砂糖とだし汁各小さじ1を弱火で加熱し練り混ぜ、沸騰前に火を止め、粗熱を取ったら、ゴマ豆腐にかける。

ポイント
喉越しと風味の良い、なめらかなゴマ豆腐に仕上げる。

 

F 簡単さっぱりチーズケーキ
ゼラチンは便利なアイテム!

ボウルにクリームチーズ小さじ2に牛乳50mℓを混ぜ、市販のデザートベース1/3袋分を加える。水でふやかした粉ゼラチン1.6gを電子レンジで加熱し溶けたら、混ぜて冷やし固め、器に盛り、市販のホイップクリームを飾る。

ポイント
デザートベースを利用することで調理を簡単に。食事を一口食べた後、こういったゼリー状の食材を食べると、喉に食べ物が残りにくいので、交互に食べるのがおすすめ。

 

vol.6gansyoku6コーンスターチや片栗粉、市販の増粘剤でとろみを付けたり、ゼラチンを活用すると、飲み込みやすくなります。小さく切る、軟らかくなるまで火を通すなどの調理工夫や、ゆっくり食べるといった食べ方の工夫で、食事の選択肢はかなり広がります。

 

 

柏の葉料理教室 開催中!
国立がん研究センター東病院栄養管理室(千葉県柏市)主催で、がん治療に伴う諸症状に悩む患者さんやその家族を対象とした「柏の葉料理教室」が開催されています。
開催日:原則として第2・4木曜日
参加費:材料費として500円
申し込み・問い合わせ:国立がん研究センター東病院 栄養管理室
TEL:04-7134-6909(開催3日前までに)

落合由美 国立がん研究センター東病院栄養管理室長

おちあい・ゆみ●国立東京第二病院・栄養士、国立がんセンター中央病院・栄養係長などを経て、2008年より現職。近刊に柏の葉料理教室で紹介したレシピをまとめた『がん患者さんのための国がん東病院レシピ』(共著、法研)がある。(取材時現在)

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