がん治療と食事

手間を省いて患者さんがご家族と一緒の食事を楽しむ工夫① 「食材を変える」

監修:千歳はるか(ちとせ・はるか) 国立がん研究センター東病院  栄養管理室長

2017年1月4日

がん患者さんにとって病気との闘いはつらく、ときに長期化することもあるので、いろいろな面でご家族のサポートは欠かせません。その中でも食事のサポートは大きなウエイトを占めます。手術後や抗がん剤治療中の患者さんは、飲み込むことがうまくできなかったり、消化・吸収力が低下していたり、吐き気や食欲不振に悩まされるなど、食事に対して多くの問題を抱えているからです。

ご家族は、患者さんが栄養不足にならないように日々工夫をされていますが、患者さんを支える側のご家族の健康もまた大切です。時間がなかったり、疲れていたりするようなときには無理をせず、調理の手間を省く工夫も必要ではないでしょうか。

そこで、よく紹介するのが、食材を少し変えるだけで、患者さんの分と他のご家族分を1つの鍋で作ることができるメニューです。

今回、患者さん用の食材選びのポイントは、「消化のよさ」。豚の厚切り肉の代わりに薄切り肉と車麩を組み合わせたり、野菜のお麩巻きの芯には硬い根菜を避けて、軟らかい根菜や葉物野菜を選んだりしてみました。

食材を変えるだけですから、仕上がりの見た目は同じです。患者さんの中には、「手術後、おいしいものが食べられない」と悲観的になっている方も少なくありません。豚カツをアレンジした「軟らかお麩カツ煮」は、そんな不満を解消する食べ応えのあるひと品といえます。

また、「自分の食事作りが、家族の負担になっていないだろうか」と心配する患者さんもいらっしゃると聞きます。ご家族が手間をかけずに調理することは、そんな患者さんの心の負担を軽減することにもなります。

<「食材を変える」メリット>
(1)消化器などの手術によって、消化力の低下している患者さんの体への負担を軽減する。
(2)「家族と同じものを食べている」と患者さんが感じることで、食事への満足度が高まる。
(3)用意する食材の一部を変えるだけで、調理工程は同じなので、作り手の負担が少なくてすむ。

<「食材を変える」アイデア>
vol9_food01肉の代わりに車麩や板麩を使う他、ひき肉の代わりに魚や魚の缶詰を用いる。例えばハンバーグの場合、患者さん用には魚の缶詰と豆腐でまとめた軟らかな魚バークを用意。ロールキャベツもひき肉ではなくサケを使う。麺類の中ではかん水が含まれている中華麺の消化がよくないので、そうめんで代用するのも1つの方法。

ご家族用のメニュー「カツ煮」
ご家族用には豚肉のロースやヒレを用意し、患者さん用には車麩という方法もあるが、それでは物足りないという患者さんには車麩に薄切りの肉を巻くと満足度がアップする。今回のカツは油で揚げずにオーブンで焼くので、ヘルシーなうえに油処理の手間も省ける。

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患者さん用のアレンジメニュー
軟らかお麩カツ煮

水で戻した車麩を4等分に切って薄切り肉で巻く。麩を肉と組み合わせているので、このままでも患者さんとご家族が一緒に楽しめるメニューの1つ。
水で戻した車麩を4等分に切って薄切り肉で巻く。麩を肉と組み合わせているので、このままでも患者さんとご家族が一緒に楽しめるメニューの1つ。

 

■材料(2人分 お麩カツ煮のみの材料)
豚薄切り肉…4枚 車麩…1枚 タマネギ…1/4個 卵…1個 小麦粉…大さじ1 水…小さじ4 パン粉…大さじ4 だし汁…80㎖ しょうゆ・みりん・酒…各小さじ1.5 サラダ油・コショウ・ミツバ…各少々

■作り方
①車麩を水に浸けて戻したら、水気を切って4等分に切る。

②小麦粉は水に溶いておく。パン粉はサラダ油をまぶしておく。

③豚肉を広げてコショウを振る。車麩を豚肉で巻き、水溶き小麦粉にくぐらせ、パン粉を付ける。

④オーブンシートを敷いた天板に③を並べ、200℃に予熱したオーブンで10分ほど加熱する。

⑤タマネギは皮をむいて薄切りにする。

⑥卵は割りほぐしておく。

⑦ミツバは2、3㎝ほどに切る。

⑧鍋にタマネギ、④、だし汁、しょうゆ、みりん、酒を入れて、軟らかくなるまで煮る。最後に卵を加え、ふたをして半熟状態で火から下ろす。

⑨器に盛って、ミツバを散らす。

 

 

ご家族用のメニュー「野菜の肉巻き」
野菜の肉巻きがご家族用で、軟らかい肉に食感が似ていて、見た目も肉巻きに近い野菜のお麩巻きが患者さん用。芯となる野菜も味付けも同じに作ることができるが、ご家族用の肉巻きには、芯にゴボウやインゲンを使い、歯応えが楽しめるようにしてもよい。

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患者さん用のアレンジメニュー
野菜のお麩巻き〜ナスのドレッシング漬け

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■材料(2人分 野菜のお麩巻きと野菜の肉巻きを合わせた材料)
<野菜のお麩&肉巻き>
板麩…乾燥10g 豚モモの薄切り肉…2枚 ダイコン…20g ニンジン…1/8本 ホウレンソウ…1株 サラダ油…小さじ1/2 片栗粉…小さじ1 酒・しょうゆ…各小さじ1.5 砂糖…小さじ1強 水…80㎖ 塩…少々

<ナスのドレッシング漬け>
ナス…小1/2個 黄パプリカ…1/8個 フレンチドレッシング…小さじ2

■作り方
①野菜のお麩&肉巻きを作る。板麩を水に浸けて戻したら、よく水気を切る。

②豚モモ肉に塩を振り、もみ込む。

③ダイコン、ニンジンは皮をむき、拍子切りにしてゆでる。ホウレンソウは塩ゆでにして絞ったら、根を落として3、4㎝に切る。

④ ①、②の片面に片栗粉をまぶし、③を巻き込む。

⑤熱したフライパンにサラダ油をひき、④を転がしながら焼く。焼き色が付いたら、酒、しょうゆ、砂糖、水を加えて煮からめる。

⑥ナスのドレッシング漬けを作る。ナスは皮をむき、1、2分水に浸けたら、耐熱容器に入れてラップをし、電子レンジで3分ほど加熱する。これを1口大に切っておく。

⑦黄パプリカは直火であぶり、表面をこがす。冷水に取り、皮をむく。種とヘタを取って千切りにする。

⑧ボウルに⑥と⑦、フレンチドレッシングを入れて冷蔵庫で馴染ませる。

⑨器に⑤と⑧を盛り付ける。

 

柏の葉料理教室 開催中!
国立がん研究センター東病院栄養管理室(千葉県柏市)主催で、がん治療に伴う諸症状に悩む患者さんやその家族を対象とした「柏の葉料理教室」が開催されています。
http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/seminar/about_cooking.html
開催日:原則として第2・4水曜日
開催時間:12:00〜14:00 ※11:50〜受付開始
参加費:材料費として600円
申し込み・問い合わせ:国立がん研究センター東病院栄養管理室
TEL:04-7134-6909(2日前までに)

千歳はるか 国立がん研究センター東病院栄養管理室長

ちとせ・はるか●旧・国立東信病院(栄養士)、国立病院機構東京医療センター(副栄養管理室長)など6カ所の病院を経て、2015年4月より国立がん研究センター東病院栄養管理室長となる。(取材時現在)

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