家族そろって同じ料理をいただくことは、患者さんにとって「楽しい食事」の条件の1つといえます。「自分だけ病人食で、おいしいものが食べられない」という孤立感を患者さんに与えずにすむからです。けれども、術後や化学療法などによる影響で消化・吸収力や嚥下(えんげ)する力が低下していて、「家族と同じものを食べるのが難しい」という患者さんも少なくありません。その場合は、同じ献立でも患者さん用に少しだけ「形を変える」工夫をしてください。
例えば、食材の皮を厚めにむいたり、長時間煮込んだりして軟らかくするのも1つの方法。煮込み時間を短縮したい場合は、圧力鍋を活用したり、塩麹(こうじ)や重曹などを用いてもよいでしょう。
誤嚥(ごえん)しやすい患者さんには、 ジュレ状にしたり、とろみを付けたりする工夫が必要です。「液体なら誤嚥しにくい」と思いがちですが、サラッとしてとろみのないスープなどは飲み込んでからの落下速度が速いためにむせやすく、実は危険なのです。お茶などもジュレ状にしたほうが安全。ですから、野菜に添えるドレッシングやソースにも、患者さん用には少しとろみをつけるように工夫しましょう。
軟らかく調理したものが安全で食べやすいとしても、そればかりでは飽きてしまい、「生野菜の歯ごたえを楽しみたい」という声をよく聞きます。固形物が大丈夫な患者さんであれば、生野菜を小さくカットして、ジュレドレッシングでサラダ仕立てにしてみてください。野菜の大きさはスプーンで食べられるくらいが目安。がんの患者さんは疲れやすく、毎日の食事を負担に感じている人もいます。スプーンを使う食事なら、横になりながらでも食べられますから、身体的負担も軽減できます。
<患者さん用に「形を変える」テクニック>
●素材をおろしたり、小さく切って消化・吸収を助けたり、咀嚼による疲れを軽減する。
●皮を厚めにむいたり、長時間煮込んだりして煮くずれするくらいに軟らかく仕上げる。
●ジュレやムース状にしたり、とろみをつけたりして食材をまとめて飲み込みやすくする。
<そろえておくと便利な食材>
●片栗粉:温かい料理のとろみ付けに使うが、冷めると水分が出て、誤嚥の原因になるので要注意。
●ゼラチン:ジュレやムースの他、ツルンとした喉越しのゼリー寄せにも。最近は取り扱いしやすいゼリー食用調整食品もある。
●くず粉:とろみを付ける食材。練らなければならないので少し手間はかかるが、独特の食感が楽しめる。
●重曹:ふくらし粉として使う場合が多いが、肉や魚を軟らかくする効果もある。また湯豆腐などに加えるととろみが出る。ただし量をコントロールしないとえぐみが出るので注意。
●介護用増粘剤:患者さんの病状に合わせた使いやすい増粘剤が多種販売されていて、通信販売でも購入できる。天然食材と味が変わらない点もよい。
●ジュレドレッシング:ふつうのドレッシングにゼラチンを加えて作ることもできるが、時間がないときのために市販のジュレドレッシングを常備しておくと便利。
シュウマイは手作りしても、市販のものでもOK。ご家族用にはシュウマイを蒸したり、揚げたりして野菜を添える。患者さん用にはシュウマイを野菜とともに軟らかくなるまでスープで煮て仕上げる。
■材料(2人分)
シュウマイ…4個 ニンジン…中1/8本 ハクサイ…60g(1~2枚) 水A…1/2カップ強 酒…小さじ1 しょうゆ…小さじ1/6 鶏ガラスープの素・片栗粉・水B・ゴマ油…各小さじ1/2
豚薄切り肉…4枚 車麩…1枚 タマネギ…1/4個 卵…1個 小麦粉…大さじ1 水…小さじ4 パン粉…大さじ4 だし汁…80㎖ しょうゆ・みりん・酒…各小さじ1.5 サラダ油・コショウ・ミツバ…各少々
■作り方
① シュウマイは半分に切る。
② ニンジンは皮をむいて千切りにし、ハクサイは細切りにする。
③ 鍋に、水A、鶏がらスープの素、②を入れて火にかける。野菜に火が通ってきたら①を加える。
④ 全体が軟らかくなったら、酒、しょうゆを加え、水溶き片栗粉(片栗粉を水Bで溶いたもの)で、とろみを付ける。
⑤ ゴマ油を回しかけて器に盛る。
ご家族用には、冷やしたコンソメスープにおろした野菜やパセリを添える。患者さん用にはコンソメスープとゼラチンを混ぜて冷やし固めたものに、おろした野菜などを添える。かんだり、飲み込んだりするのが苦手な患者さん向きの料理。
患者さん用のアレンジメニュー
おろし野菜のトロッとジュレスープ
■材料(2人分)
キュウリ…1/3本 ニンジン…中1/8本 パセリ…適量 水A…230cc 水B…10cc コンソメ顆粒…小さじ1弱 粉ゼラチン…小さじ1 白ワイン…小さじ2
■作り方
① キュウリと皮をむいたニンジンをおろす。
② パセリはみじん切りにする。
③ 耐熱皿に水Bを入れ、粉ゼラチンを振り入れて、よく混ぜる。これを電子レンジで透明になるまで(1分ほど)加熱する。
④ 鍋に水Aを入れて沸かし、白ワイン、コンソメ顆粒を入れる。火を止めて粗熱をとっておく。
⑤ ボウルに③と④を入れ、よく混ぜて冷やし固める。
⑥ 器に⑤を盛り付け、①と②を添える。
国立がん研究センター東病院栄養管理室(千葉県柏市)主催で、がん治療に伴う諸症状に悩む患者さんやその家族を対象とした「柏の葉料理教室」が開催されています。
http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/seminar/about_cooking.html
開催日:原則として第2・4水曜日
開催時間:12:00〜14:00 ※11:50〜受付開始
参加費:材料費として600円
申し込み・問い合わせ:国立がん研究センター東病院栄養管理室
TEL:04-7134-6909(2日前までに)
千歳はるか 国立がん研究センター東病院栄養管理室長
ちとせ・はるか●旧・国立東信病院(栄養士)、国立病院機構東京医療センター(副栄養管理室長)など6カ所の病院を経て、2015年4月より国立がん研究センター東病院栄養管理室長となる。(取材時現在)