がん治療と食事

がん治療中の食欲不振を乗り切るための13の工夫

落合由美(おちあい・ゆみ) 国立がん研究センター東病院 栄養管理室長

2013年5月13日


抗がん剤や放射線治療中、手術後には、思うように食べられないと悩む患者さんが多くいらっしゃいます。また食事を準備する家族も「食べてくれない……」と不安を募らせるケースが少なくありません。このような、がん治療のときの食欲不振の対処法や工夫、食欲が無いときのレシピについてご紹介します。
 

焦らずに、まず食欲不振の原因を見極める

食欲が無い場合には、まず最初に「食欲不振の原因」を知ることが大切です。食欲不振の背景には複数の要因があり、その原因が分かれば、それぞれに対応した方法で食事の工夫をすることができます。

食欲不振の主な原因は、以下のようなものがあります。

・副作用による影響

・通過障害、嚥下障害(飲み込みにくい、つまる)

・消化吸収機能の低下

・体動困難(だるさや痛みで体を起こすのがつらい)

・心理的な負担
 

食欲不振のおもな原因

食欲不振のおもな原因

たとえば吐き気・嘔吐や口内炎など、化学療法にともなう副作用がある場合には、お茶漬けやそうめんなどの口当たりがよく、においの少ない食事だと比較的無理なく食べることができます。

また抗がん剤治療後には、味を感じるための舌の「味蕾(みらい)細胞」がダメージを受ける等の理由により、多くの患者さんに味覚障害が出現し、その割合は6〜7割とも言われています。

「味を感じ難い」「何を食べても苦い」などの場合は、レモン汁やゆず、シソ、ショウガなどの香味を使ったり、だしをしっかりときかせて、香りや旨味を利用すると良いでしょう。どんな味付けが美味しく感じるのかを、患者さんと食事を用意する方が協力して見つけていくことが大切です。

無理に食べようとせず臨機応変に

そして食欲不振を抱えている際に重要なのは、無理に食べようとしないこと。

三食をいつもの食事時間に食べられなければ、1回の量を小盛にして間食を摂ってもいいし、食べたいと思うのであれば、たとえカップ麺でも優先して摂って構いません。ずっとカップ麺では困りますが、いずれほかのものも必ず食べられるようになります。つまり症状に応じ、臨機応変に対応すれば良いのです。

口から食事を摂ることは、自信や精神的な安定感にもつながります。患者さんと家族がしっかりコミュニケーションをとり、焦らずに少しずつ試してみましょう。
 

ひと工夫で食欲不振時の悩みを解消!かんたんレシピを紹介

がんと食VOL.2

かぼちゃと鶏ささみの高栄養ポタージュ

●材料(2人分)

かぼちゃ…100g じゃがいも…1/4 個 玉ねぎ…1/10 玉 鶏ささみ…40g
バター…小さじ1 水…100ml コンソメ…2g ホワイトソース…40g
牛乳…100ml 塩・コショウ・パセリ…少々
*エネルギー139kcal たんぱく質7.8g 食塩相当量0.8g

●つくり方

1. かぼちゃは種をとり、薄めに切る。じゃがいもは皮をむいて適当な大きさに切る。玉ねぎは皮をむいて乱切りに。

2. 鶏ささみは筋をとり、そぎ切りにして酒を振っておく。

3. 鍋にバターを熱し、玉ねぎを炒める。しんなりしたら、鶏ささみ、じゃがいも、かぼちゃを炒める。水、コンソメを加え、やわらかくなるまで煮る。

4. 3をミキサーにかける。

5. 4を鍋に戻し、煮ながら好みでホワイトソース、牛乳、塩、コショウを加えて仕上げる。きざみパセリを散らす。
 

食欲が無いときの13の工夫 

1.体調のよい時間帯に食べる

おにぎりやパン、ゆで卵、果物、プリンなど、手ごろな間食を用意しておく。

2.食べられそうな食品を選ぶ

塩昆布やふりかけなどごはんがすすむもの、酢の物や豆腐など、さっぱりしていてにおいのないものがおすすめ。

3.多くを食べられない場合は少量にして回数を増やす

個人差はあるが抗がん剤などによる吐き気は1〜3日がピークだが、その後徐々に改善。量を調整するなど工夫を。

4.手元に軽食や果物を用意する

身体を起こすのがつらい場合など、横になったまま手で食べられるものを常備。

5.いままで吐き気などを生じたことのある食事には注意

気分が悪くなる誘因となる場合があるので、記録するなどして注意する。

6.刺激の強すぎる食事は避ける

香辛料を使用した激辛料理や多量の油を使った料理は、とくに消化吸収機能が低下している場合には注意。

7.熱すぎたり、冷たすぎたりするものは多量に同時に摂らないように

消化管への刺激となる場合があるので、温度を調節しながら食べる。

8.脂っぽい食事は注意が必要

脂肪の多い揚げ物や肉料理などは胃内停滞時間が長く、ムカムカ感や胃もたれ感が増してしまうことがある

9.においが強い、濃すぎる味付けは注意する

ムカムカ感を増強させる。温かい食事はにおいを強く感じることが多い。

10.ほのかな香りを利用する

ユズ、シソ、ショウガなどの柑橘類や香味野菜、香辛料を上手に使う。

11.口当たりのよい、飲み込みやすい食品を

イモ類などパサつくものは、あんやたれなどでまとめる工夫を。

12.食間に水分をこまめに摂る

とくに吐き気・嘔吐のある場合は、脱水を予防するためにも水分補給を。

13.楽しい雰囲気で食事を摂り食後は安静に

食卓や食器、盛り付けを工夫するなど、食事が楽しみになるように。

 

柏の葉料理教室 開催中!
国立がん研究センター東病院栄養管理室(千葉県柏市)主催で、がん治療にともなう諸症状に悩む患者さんやその家族を対象とした「柏の葉料理教室」が開催されています。
開催日:原則として第2・4木曜日
参加費:材料費として500円
申し込み・問い合わせ:国立がん研究センター東病院 栄養管理室
TEL:04-7134-6909(3日前までに)

落合由美 国立がん研究センター東病院栄養管理室長

おちあい・ゆみ●国立東京第二病院・栄養士、国立がんセンター中央病院・栄養係長などを経て、2008年より現職。
『胃を切った人を元気いっぱいにする食事160』(主婦の友インフォス情報社)などを監修。(取材時現在)

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