がんの予防・早期発見

がん予防の12か条。食生活を見直してがんのリスクを抑えよう。

落合由美(おちあい・ゆみ) 国立がん研究センター東病院 栄養管理室長

2013年4月12日

がんの要因の6割を占める「喫煙」と「食事」

喫煙もがんのリスクを上げますが、食事もがんになる大きな要因です。2つの要因がじつに6割を占めます。以下のデータはがんで死亡したアメリカ人ががんになった推定要因ですが、生活習慣の改善で多くのがんが予防できることを示しています。これは日本人も同様で、とくに食事は毎日のことなので、科学的根拠に基づいた正しい知識を得ることが大切です。

がんになった推定要因
がんになった推定要因:ハーバード大学(1996 年)がん予防センター発表

残念ながら、これさえ守れば「絶対にがんにならない」という方法はありません。しかし上のグラフを見ても分かるように、喫煙、食生活、運動不足などの生活習慣を改善することによって、がんのリスクは大幅に下がります。

当然ですが、食事で大切なのは「偏りのない食生活」です。食物には発がん物質が含まれていることがあり、一度の食事で口に入る量はわずかですが、発がん物質を含む食品を摂り続ければ、がんになるリスクは上がります。

たとえばハムやソーセージなどの加工肉の摂り過ぎは、大腸がんのリスクを上げるといわれており、反対に野菜類に含まれる食物繊維は、大腸の働きを活発にし、腸内発がん物質の濃度を薄めるため、大腸がんにかかりにくくするといわれています。

食物に含まれる発がん物質を一切口にしないなどということは不可能ですが、バランスのよい食事をさまざまな食品から摂るよう心がけることで、それぞれの作用を相殺したり、助長したりすることは可能です。

また、過不足のないバランスのとれた食生活を送ることは、多くの生活習慣病の予防にもつながります。
例えば、糖尿病は生活習慣病の代表的なひとつですが、糖尿病になることによって、がんになるリスクが大幅に上昇することが明らかになっています。

[関連記事]糖尿病とがんの関連が明らかに ― 糖尿病治療薬メトホルミンが、がんの予防で注目

発がん物質ってなに?

発がん物質は、大きく「遺伝毒性発がん物質」と「非遺伝毒性物質」の2 種類に分類されます。とくに気をつけたいのは前者で、遺伝子を直接傷つけるためリスクが高いのです。魚肉類の焼け焦げに含まれる成分やジャガイモなどを高温で加熱調理した際に生成される物質などが、近年「遺伝毒性発がん物質」として注目されています。

発がんの可能性が高い食品(平成20 年度食品安全委員会食品安全確保総合調査事業)

取り過ぎに注意したいもの

アルコール:1 日2 合以上の飲酒で40%、3 合以上の飲酒で60%ほどのリスクが上がる。

塩辛など:食塩の摂り過ぎは胃がんのリスクを上げる。塩辛などの高塩分食品は過剰摂取は控えよう。

肉や魚の焼き焦げ:肉や魚の焼き焦げは多く摂取すると発がん原因に。できるだけ避けよう。

ハムなどの加工肉やステーキなど:加工肉、牛、豚、羊などの赤身肉は大腸がんのリスクを高める。肉ばかりでなく、魚や大豆製品などもバランスよく。

ポテトチップスなど:アスパラギンと炭水化物を多く含むジャガイモなどを高温調理したものは注意が必要。

がん予防のために不足しないようにしたい食品

 

「がんを予防するための新12カ条」

私たちが、できるだけがんにならないために自分でできることが「がんを防ぐための新12か条」として公開されています。
この新12か条は、日本人を対象とした疫学調査や研究方法から明らかとされている根拠に基づいて、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターがまとめたものです。

1. たばこを吸わない 

非喫煙者に比べ、喫煙者のがん全体のリスクは約1.5倍。

2. 他人のたばこの煙を避ける

受動喫煙は、非喫煙者の肺がんのリスクも上げることに。

3. お酒はほどほどに

飲む場合は1日当たりアルコール量に換算して約23g程度まで(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、ワインならボトル3分の1程度)。

4. バランスのとれた食生活を

摂りすぎるとがんのリスクを上げる可能性がある食品中の成分などがあるため、リスクを分散させるためにも、偏りのない食事を。

5. 塩辛い食品は控えめに

塩分を抑えることは、日本人に多い胃がんの予防に有効。食塩は1日当たり男性9g、女性7.5g未満に。

6. 野菜や果物は豊富に

野菜・果物による予防効果は食道がんや肺がんなどでみられる。

7.適度に運動

身体活動・運動量が多いと、大腸がんや乳房のがんのリスクが低い。

8.適切な体重維持

中高年期男性のBMIは21〜27、中高年期女性は19〜25の範囲内になるように体重をコントロールする。日本人においては欧米とは異なり、肥満とがんとの関係はそれほど強い関連がないことが示されている。むしろやせすぎは感染症や脳出血を引き起こしやすくなる。

9. ウイルスや細菌の感染予防と治療

ウイルスや細菌の感染予防や早期治療で防ぐことのできるがんもある。一度は肝炎ウイルス、ピロリ菌などの検査を。

10.定期的ながん検診を

1年または2年に1回、定期的に検診を受けよう。検診は早期発見に有効で、前がん状態も発見できる。

[関連記事]日本人が“がん検診”をうけたほうがいい3つの理由

 

11. 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を

やせる、顔色が悪い、貧血がある、下血やおりものがある、咳が続く、食欲がない、などの症状に気づいたら、かかりつけ医などを受診する。

12. 正しいがん情報で、がんを知ることから

科学的根拠に基づくがん情報を得て、自分に合ったがんの予防法を知る。

 

参考:公益財団法人がん研究振興財団「がんを防ぐための新12か条」
https://www.fpcr.or.jp/pamphlet.html

落合由美 国立がん研究センター東病院栄養管理室長

おちあい・ゆみ●国立東京第二病院・栄養士、国立がんセンター中央病院・栄養係長などを経て、2008年より現職。
『胃を切った人を元気いっぱいにする食事160』(主婦の友インフォス情報社)などを監修。(取材時現在)

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