がんの予防・早期発見

日本人が“がん検診”をうけたほうがいい3つの理由

文:編集部

2018年10月25日

長らく日本人の死因の第1位となっているがん。一方で、近年の診断や治療の進歩によって、必ずしも「がん=死」ではなくなってきていることも事実です。

2018年2月に、国立がん研究センターからがんと診断された患者さんの10年生存率が発表されました。このデータによると、10年生存率の平均はおよそ55%となっています。しかし、このデータをがんの進行度(病期)別に詳しく見ていくことで、私たちががん検診を受けるべき明確な理由が見えてきます。

日本人のがん検診受診の現状

最近は多くの著名人やタレント、アスリートなどががん闘病を公表するようになり、ときには残念な訃報を耳にすることも少なくありません。

こうしたニュースが報道されると、がんの予防方法について調べたり、自分の体は大丈夫だろうかとがん検診を受診したりする人が一時的に増えるそうです。実際、当サイトでも、今年9月にある格闘家の方ががんで亡くなったニュースが流れたときには、がんの早期発見の記事へのアクセスが急増しました。

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しかし、こうしたことは一時的な現象です。それは、我が国におけるがん検診の受診率などから見て取れます。

 

あいかわらず低水準な検診受診率

日本のがん検診受診率(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん)
2016年国民生活基礎調査(厚生労働省)より ※胃がん、肺がん、乳がん、大腸がんは40歳以上、子宮頸がんは20歳以上を対象。 ※子宮頸がん検診と乳がん検診は、「2年に1度」の受診が勧奨されているため、2015年と2016年の合計に基づく検診受診率。

2016年に実施された「国民生活基礎調査」によると、科学的に有効と認められて市区町村が提供している5つのがん検診の受診率は、男性においては、胃がん、大腸がん、肺がんの検診は40〜50%程度、女性は、乳がん、子宮頸がん検診を含めて受診率は30〜40%台となっています。

日本のがん検診受診率は先進諸外国の中でも低く、例えばアメリカ、イギリスでは乳がん検診、子宮頸がん検診とも受診率は80%前後(2012-13のデータ)となっており、日本はその約半分となっています。

 

がん検診を受けない人の本当の理由とは

以下は、内閣府が2016年に実施した、「がん対策に関する世論調査」で、がん検診を受けていない人に、検診を受けない理由を聞いた調査結果です。

がん検診を受けない理由「がん対策に関する世論調査(2016年)」より
「がん対策に関する世論調査(内閣府)」2016年11月実施。調査対象:全国18歳以上、有効回収数 1,815人

この理由を見て分かることは、検診を受けない人にも、どうしても検診を受けられない(受けたくない)明確な理由があるわけではない、ということです。
「受ける時間がない」と回答した人が、「もし、今から1週間以内にがん検診を今受けなければ、その後1年以内にがんが100%発症します」と言われたら、「時間がないので受けません」というでしょうか?
おそらくほとんどすべての人は、どうにかして都合をつけて検診を受けることでしょう。

「時間がない」と答えている人は、本当に1年にたった数時間の検診の時間がとれないわけではなく、その時間を工面して検診をうけるのに見合うだけのメリットを感じていない、または受けないことでのデメリットを感じていない、というのが真の理由でしょう。
それ以外の「今健康なので」や「いつでも受信できる」「お金がかかる」などもすべて同じ共通する心理から来ているものと思われます。

 

がん検診を受けるべき3つの理由

しかし、これらの人が思っているよりはるかに明確な「受けるべき理由」があるのです。がん検診をうけるべき3つの理由を見ていきます。

検診を受けるべき理由① 病期別の10年生存率から明らかなこと

がん検診をうけるべき1つ目の理由は、早期発見が、がん完治のために何より有効だからです。

2018年2月に、国立がん研究センターから発表されたデータによると、がんと診断された人の10年生存率(診断10年後に生存している割合)の平均はおよそ55%です。主ながんの種類別で見てみると、胃がんは64.3%、大腸がん65.9%、肺がん30.4%、肝臓がん14.6%、前立腺がん92.4%、乳がん82.8%、子宮頸がん69.8%、子宮体がん79.0%などとなっています。

肺がんや肝臓がんなどでは厳しい数字が見て取れますが、ほかのがんでは6割から9割以上が10年以上生存しており、やはりがんは怖い病気ではなくなりつつある、と感じる方も多いかもしれません。

次に、がんと診断されたときの進行度を示す病期(ステージ)ごとの数字を見てみます。

がん患者の部位別・病期別10年生存率
全国がんセンター協議会ホームページ「部位別臨床病期別10年相対生存率(2001-2004年)」より作成

例えば胃がんであれば早期のⅠ期(ステージⅠ)で発見して治療を受ければ、9割の人は10年後も生存していますが、進行したⅢ期(ステージⅢ)だった場合は10年生存率は約3割に下がり、Ⅳ期では100人中6人しか10年後生存していないことが分かります。
女性がかかるがんとして最も多い乳がんでは、同じくⅠ期、Ⅱ期なら8割以上ある10年生存率が、Ⅳ期では15%に大きく下がってしまうのです。

このように、もしがんになったとしても治るためには、どんな最先端治療をうけるよりも早期発見のほうが有効であろうことは数字からも明らかです。

 

検診を受けるべき理由② 自覚症状からがんを早期発見するのは実質ムリ

では、早期発見するにはどうするか。
このサイトでもお話をお聞きした、長距離ランナーの粕谷悟さんは、ほんのわずかな違和感を体に感じ、精密検査を行ったところ、ステージⅡの悪性リンパ腫が見つかったそうです。しかしながら、これは毎日自分の体と向き合って、コンマ1秒のタイムを競い合っているアスリートだからこそ気づけた違和感でしょう。

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皮膚がんや乳がんなど体の表側にできる一部のがんを除き、体の中にできるがんは目で見たり、触ったりして確認できません。肝臓がんや膵臓がんなど初期には自覚症状が出ないがんも多く、一般的に、痛みなどの自覚症状からがんが発見された場合、既に進行してしまっていることも少なくありません。

先述のがん検診を受けない理由として、「今は健康だから」「いつでも病院にいけるから」という理由がありましたが、がんの場合は症状が出て、それを合図に病院にいったときには手遅れということが少なくない病気なのです。国を挙げて「定期的ながん検診」を進めている理由はここにあります。
がんがまだ早期のうちに発見し、治療を行うためには、適切ながん検診を受けることがもっとも近道になります。

 

検診を受けるべき理由③ 早期発見すれば治療費は安く済む

早期発見のためにがん検診をうけるべき3つ目の理由は、トータルの費用が少なく済むからです。
がんの治療費はお金がかかるイメージがありますが、必ずしもそうではありません。早期がんで手術が必要となった場合、手術費用に数十万円程度かかりますが、国民健康保険・高額療養費制度によって、大多数の方の自己負担は数万円で済みます。その後は再発などがなければ定期検査だけという場合も多いため、治療費はそれほどかかりません。

一方、進行がん(広い範囲にがんが広がっていたり、他の臓器に転移がある)の場合は手術ができないことが多く、抗がん剤などの薬物療法が中心となります。薬物療法ももちろん公的保険が使えますが、治療は数ヶ月から数年に渡り、治療期間も予測がしづらいため、結果として治療費が高額になってくるケースが増えます。

がん検診にも多少の費用はかかりますが、早期でがんを発見できれば、結果として治療費も含めた全体の費用は安く済む場合が多いのです。

 

推奨されているがん検診の種類や方法。簡便な検査方法も実用化されつつある

がん検診は、過剰診療につながるケースもあるといったデメリットも指摘されているため、近年は、科学的に評価した上で、有効であると分かった検診が公共の政策として実施されています。死亡率減少効果が認められたがん検診の検査方法、対象年齢、受診間隔については、国の指針にまとめられています(下表参照)

がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(厚生労働省)により推進されているがん検診
厚生労働省が指針で定め、市区町村が行っているがん検診。検査方法には「問診」が含まれるが、表中では省略。

こうした検診は、市区町村が行っており、公的な補助金が出るので、無料か自己負担が少額ですみます。対象となる時期になると、市区町村から案内が送られてくるはずです。

医療機関・検診機関等が提供している人間ドックなどでは、上記のような検診に加え、より幅広いがん検診のオプションが提供されています。
近年では、リキッドバイオプシーという非常に簡便な検査方法も実用化されつつあります。リキッドは「液体」の意味で、血液や唾液、尿などの液体を用いてがんを診断する方法です。
X線や内視鏡などを使用しないため、時間がない人や、病院や検診施設までなかなか行けないという人にも、自宅で受けられ、検診の受診率が高まることが期待されます。

 

まとめ

以上、がん検診をうけるべき3つの理由を見てきました。

・がんを治すためには、早期発見が何より有効
・がんは自覚症状で早期発見するのは不可能
・検診費用はかかっても、早期がんのほうが治療費はかからない

生涯で2人にひとりはがんになる時代です。自分自身のためだけでなく、あなたを大切に思うご家族のためにも、早期発見に努めましょう。

 

参考文献:

厚生労働省ホームページ「がん対策情報 がん検診」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html

全国がんセンター協議会ホームページ「部位別・施設別生存率」
http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/

内閣府政府広報オンライン がん対策に関する世論調査(平成28年度11月実施)
https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-gantaisaku/index.html

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