がんの予防・早期発見 ドクターコラム:がん治療の現場から

第8回「手遅れになる前に…がんのサインを見つけるには?」

島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)

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消化器系がんの自覚症状・初期症状

がんは早期発見・早期治療が大切です。前回(「かかる部位で大きく変わる!消化器系がんの特徴と現状」)でもお伝えしたように、症状も部位によってさまざまで、例えば食道がんや胃がんなら、食事での違和感が、がん発見のきっかけになることも。大腸がんでは便秘や下痢、血便といった便通異常がそれにあたります。なかには「痔かもしれない」と放置する方もいますが、検査をするに越したことはありません。

厄介なのは、直接的に症状が出にくい、肝胆膵(肝臓・胆のう・膵臓)系のがんです。とくに膵臓がんは、自覚症状も出にくく、体の奥まった部分にあることから検診でも異常を見つけづらい、早期発見が難しい代表的ながんです。黄疸(おうだん)などの自覚症状が現れた時点で、かなり進行しているケースが少なくありません。

肝がんも初期の症状がわかりにくいがんですが、倦怠感や全身のかゆみなどが挙げられます。また、眼球が黄色くなるのも黄疸症状のサインですから、心当たりのある方は、すぐに病院を受診してください。

胆管がんでは、突然の発熱や腹痛、黄だん症状などがあります。ある医師は、発熱をきっかけに自身のがんを発見したそうですが、これはプロだったからこそ。多くの人は風邪と勘違いするでしょうし、発熱のたびに、毎回がんの検査をするというのもあまり現実的ではありません。

いずれにしても、体の内部にある消化器のがんを自覚症状から早期発見するのは現実的には困難で、自覚症状が出たら進行してしまっているケースも少なくありません。

 

定期的な検診を心がければ、消化器系のがんは怖くない!

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そこで、上手に活用してほしいのは、定期的な検診です。

勤務先の健康診断や、自治体が実施するがん検診などを積極的に活用しましょう。職場であれば、通常年に1回は実施され、異常があれば精密検査を勧められますから、がんを見つける糸口として有効です。自治体が実施するがん検診についても、食道がんや胃がんなら、2年に1回内視鏡検査を受けていれば、手遅れになることは少ないでしょう。大腸がんなら毎年の便潜血検査と2〜3年に1回の内視鏡検査も有効です。十分に治療可能な状態でがんが発見できると思います。

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胃がんや大腸がんに比べると発見が難しいとされる肝胆膵系のがんも、こうした検診でのエコー検査などで体の状態をチェックしていれば、手がかりを見つけるきっかけになります。

もっともいけないのは、こういった機会を逃して、わざわざ進行がんに育ててしまうこと。かなり大きながんが見つかる患者さんのなかには、何年も定期検診を受けていなかったという方もいらっしゃいます。

自覚症状のない初期に定期検査で発見するのが、がんになっても治るための最大の秘訣なのです。

 

かかりやすい部位、注意すべきがんは、性別・年齢によって変わる

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なお、性別・年代によってもかかりやすい部位に傾向があります。

男性の場合、50歳未満で注意しておくのは大腸がんです。50~60代になると肺がん、ピロリ菌による胃がん、肝炎ウィルスに起因する肝がんなども気にかけていく必要がありますが、感染症系のがんは60歳まではそれほど多くはありません。

ただし、B型肝炎ウィルスは急性肝炎から慢性肝炎、肝硬変、肝がんというよう確実にステップを踏みながらがん化していきますが、C型肝炎ウィルスの場合、慢性肝炎からいきなり肝がんに進展するケースもありますので注意が必要です。

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若い女性がまず気をつけたいのは、子宮頸がんがんです。子宮頸がんは、通称「マザーキラー」と呼ばれ、これは10歳未満のお子さんを持つ女性の方が多い、35~40歳前後の方に罹患が目立つためです。その後、40~50歳代で乳がんがピークになり、50~60歳代で大腸がんが増えていきます。

子宮頸がんの発症には、ヒトパピローマウィルス(HPV)というウィルスの感染が深く関係しています。HPVは性交渉で粘膜に感染することが知られていて、性交経験のある女性であれば誰でも感染の可能性があるありふれたウィルスです。がんにまで発展するのは、ウィルスに感染した中でごく一部の方ですが、子宮頸がん患者の9割以上からHPVが検出されています。現在、日本における子宮頸がん予防ワクチンは、副作用を指摘する声も一部ありますが、こういった背景を考慮すると一つの正しい選択であると思います。子宮頸がん検診も早期発見に有効であることが科学的に実証されており、20歳以上の女性は2年に1度は受けることが推奨されています。

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乳がんは、マンモグラフィー検査と超音波検査の2つが「乳がん検診」として確立しています。検診による早期発見が可能ですので、もっとも乳がん発症率が高まる40歳以降は、年に1度はこうした検診を受けることをオススメします。

このように、年代や性別によっても、かかりやすいがんに違いはあります。そういった点も考えながら、検診を有効に活用することをお勧めします。

 

shimada_vol.1_02島田英昭(しまだ・ひであき)
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科教授(食道・胃外科担当)。1984年、千葉大学医学部卒業後、同附属病院第二外科入局。マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員、千葉大学附属病院、千葉県がんセンターなどを経て08年千葉大学医学部付属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門客員教授(消化器外科)、09年10月より現職へ。胃がんや食道がんの専門医として評価が高い。(取材時現在)

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