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糖尿病とがんの関連が明らかに ― 糖尿病治療薬メトホルミンが、がんの予防で注目

大西正夫(おおにし・まさお)
医事ジャーナリスト

2018年6月13日

「糖尿病になるとがんにかかりやすいって、本当ですか」。

健康談義の中で肥満を気にする50代男性から、そんな声を聞いた。糖尿病と診断されて治療を受けるようになると、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化関連疾患、腎症や網膜症、神経障害などの合併症は心配する。だが、「糖尿病患者の死因で一番多い疾患はがん」と聞いて驚く患者さんは結構多い。この場合の糖尿病は、主に生活習慣が原因となる2型糖尿病を指す。

糖尿病患者のがん発症リスクは、そうでない人の約1.2倍

2016年、日本糖尿病学会の「糖尿病の死因に関する委員会」が発表した医療機関を対象とする10年ごとの死因調査(アンケート方式)によると、2001年から10年までの間に死亡した糖尿病患者さん約4万6000人の死因トップは、がんだった。1871年から80年までの調査で25.3%だったがんの死亡率は38.3%に増加し、これまで41.5%で1位だった腎症を含む血管障害による死亡率は14.9%に低下した。

欧米を中心に糖尿病とがん発症リスクの関連が特に注目されるようになったのは、2010年代に入ってからだ。日本でも2013年、同学会と日本癌学会の「糖尿病と癌に関する合同委員会」が、「糖尿病患者がすべてのがんに罹患するリスクは糖尿病でない人の1.2倍」との調査結果を報告した。

国内外からの報告をがんの種類ごとに統合解析すると、肝臓がんの2.5倍を筆頭に、子宮内膜がん2.1倍、膵臓がん1.82倍、結腸がん1.3倍、膀胱がん1.24倍、乳がん1.2倍と続く。逆に前立腺がんは0.84倍で、糖尿病による影響は見られなかった。

また、ニューヨーク大学医学部のグループは、2017年3月、日本を含むアジア7カ国で実施された19件の研究(約77万症例)を統合解析した結果、「2型糖尿病患者は非罹患者に比べ、全がん死亡リスクが26%高い」との論文を専門誌に寄稿した。図はその一部で、糖尿病の患者さんの死亡リスクの高さを男女別に示したもの。男性では肝がん、女性では腎がんがトップだった。

 

糖尿病とがんの関連、がん発症に結び付く原因解明に向けた研究は、さらに進んでいる。

最近では、膵臓で分泌されるインスリンの作用不足で生じる高血糖や、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性という状態が、がん細胞の増殖を促進することも分かってきた。血液中のブドウ糖の代謝を促すインスリンが使われないまま血液中にたくさん残ると、様々な臓器に存在する特定のインスリン受容体に作用し、臓器のがん化に結び付くというのだ。

がん発症や再発の予防に期待されるメトホルミン

もう1つ、欧米で60年以上使われてきた糖尿病治療薬のメトホルミンに抗がん効果があることが、よく知られるようになったトピックについても触れておこう。

インスリン抵抗性改善薬に分類されるこの薬は、インスリンの分泌を促進せずに血糖値を下げる効き目のよさと低価格から、欧米では糖尿病の第1選択薬として普及している。1970年代に米国などで、乳酸アシドーシス(糖尿病の急性代謝失調の1つ)などの合併症による死亡報告が相次ぎ、危険性が高いと忌避された時期があったが、使い方に注意すれば問題ないことが明らかになった。

近年、メトホルミン服用の患者さんは未服用群に比べ、膵臓がんのリスクが62%低下したとの報告(米テキサス大)をはじめ、肺がん、大腸がん、乳がんなど、多種類のがんで抗がん効果があったとする臨床研究結果が世界各地から発信されている。血中インスリン濃度を下げることでがん細胞の増殖が抑えられるためだ。糖尿病でない人に対してもがん予防、再発防止の可能性が期待されている。

日本でも最近、中年でメタボ型の糖尿病の患者さんに、第1選択薬としてメトホルミンを処方する医師が増えつつある。古典的な糖尿病治療薬が抗がん効果を携えてよみがえる「メトホルミンの逆襲」とささやかれているそうだ。

大西正夫 医事ジャーナリスト(取材時現在)

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