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誰だってがんになりたくはない。でもなってしまったらそれを受け止めて、積極的に対策を講じていくべきだと思う。
2014年、角さんはテレビ番組に出演し、自分が前立腺がんであることを告白した。食生活の欧米化や進む高齢化などにより、前立腺がんになる男性は年々増加傾向にある。「自分自身の体験を公表することで、同じ病気で悩む人のお役に立てればと思いました」。
進行の遅い前立腺がんで、患者さんが高齢の場合は、治療を急がないケースもあるが、このとき角さんは58歳。納得できる治療を1日でも早く開始したかった。
治療の目的は治すことだから人間関係で選んではダメ
長年、球界で投手として活躍してきた角さん。元アスリートだけあって、健康管理には自信があり、現役を引退してからも、簡単なトレーニングやウォーキングなど、メタボ対策にも注意を払ってきた。
「親類でがんを患った人はいないので、まさか自分ががんになるとは思ってもいませんでした」
医師から病名を告げられたときには、当然ショックを受けたが、クヨクヨするより、治療法を決めることが先決だと思った。治療の選択肢は2つ。手術か、重粒子線による放射線療法か――。
「手術には入院が伴うため、仕事に支障をきたす。そこで、重粒子線による治療を選ぶことにしました」
ただし、この治療には約1年かかるとのことだった。重粒子線そのものの治療は1カ月ほどだが、前後半年間のホルモン療法が不可欠で、その間、1カ月に1度の注射と、薬を毎日服用しなければならなかった。「1年は長過ぎる」と思ったが、その時点では、それが最良と判断して選んだ。
だが、ホルモン療法を始めて3カ月ほどたったある日、知人から「トモセラピー※」の情報を得た。トモセラピーは先進的な放射線療法で、腫瘍に対して360度全方位からピンポイントで放射線を照射するため、正常組織へのダメージが少なく体にやさしい治療だという。角さんはすぐに病院に行き、専門医の説明を受けた。
「1カ月に15回の照射ですべての治療が終了し、しかも後遺症も少ないとのことでしたから、受けようと、その場で即決しました」
そのとき進行中の治療を中断することへの迷いはなかったという。
「よく、『途中でやめたら主治医に悪い』と人間関係を気にする人がいます。その気持ちも分かりますが、治療の目的は病気を治すことですから、よりよい方法が見つかれば切り替えていくべき。先生に気兼ねをするなんて、本来の治療の目的を見失っているし、それに先生も理解してくれるはずです」
病気に弱気は禁物。前向きに最善を尽くす
目標に向かって邁進(まいしん)するという生き方を「長い野球人生で得た」と角さんは分析する。現役時代、角さんは常に「勝つこと」を目標にマウンドに立っていた。だから、キャッチャーのサインに納得できなければ首を横に振る。たとえキャッチャーが先輩であっても、中途半端に妥協すれば、打たれ、マスコミにはたたかれて、下手をすれば首が飛ぶかもしれないからだ。
「病気に対しても考え方は同じ。病気には『共存』という考え方も大切なので、『勝つ』という言葉は使いませんが、前向きに最善を尽くす。そして、もしうまくいかなかったら、すぐに次の手を打つことです」
幸い、角さんの治療はうまくいき、その後の経過も良好だ。
「弱気になると負けるという点でも、野球と病気は同じではないでしょうか。落ち込んだときには、『自分は、絶対に大丈夫』と自己暗示をかけるくらいの強い気持ちをもってほしいです」
人間の体は心の持ち方で変えられる――。そんな角さんの言葉に勇気をもらう人は少なくないのではないだろうか。
※トモセラピー(トモセラピー®ハイアート®システム/TomoTherapy® Hi•Art® treatment system)は、Accuray Incorporatedの登録商標です。