がん治療は日進月歩で、現在も世界中で多くの新しい治療法やくすりの開発が進められています。
2017年4月から18年3月の1年間でみると、国内でも20以上のがん治療薬が新しく承認されたり、新しいがん種で効能追加され、患者さんが使用できるようになりました。
「治験(ちけん)」は、このように新しいくすりが広く使われるために必要な研究でああるとともに、がん患者さんが新しい治療を受ける機会のひとつにもなっています。ここでは、現在闘病中のがん患者さんにとっての治験の位置付けや、参加方法などをご紹介します。
「治験」は、新しい治療が国から認可を得るための医学研究
くすりは、病気に対して効果があり、かつ人に投与しても安全でなくてはなりません。
くすりの開発は、病気に有効な成分を探すところから始まり、動物実験などを経て、最終的には人に投与して、安全かどうか、既存の治療と比べて効果が高いかといったことを調べます。そして、そのデータをもとに国が審査を行い、患者さんへのメリットが優れていることが確認できてはじめて、実際の治療として広く患者さんに使用されます。
このような、人を対象にした医学の研究を「臨床研究」や「臨床試験」といいますが、その中でも国(厚生労働省)に承認を得るために行うものを、とくに「治験(ちけん)」といいます。治験によって開発中の薬は「治験薬」と呼ばれます。治験は、有効な新しいくすりが誕生するために欠かせないものなのです。
治験のステップ
治験には、大きく以下の3つの段階があります。
第Ⅰ相試験(第1段階) | 少人数の健康な成人(又は患者さん)で、治験薬の安全性や、体内にどのように吸収され排泄されるかを調べます。 |
第Ⅱ相試験(第2段階) | 少人数の患者さんで、第I相試験で安全性が確認された用量の範囲で治験薬を使い、安全性、効き目、適切な投与量などを調べます。 |
第Ⅲ相試験(第3段階) | 多数の患者さんで治験薬を使用し、すでにある薬や偽薬(プラセボ)などと比較して、実際の治療に近い形で薬の安全性と効果を確認します。 |
このように、最初は健康な人、その後、実際の患者さんの協力のもとでデータをとります。段階を踏んで詳細なデータをとるために、一般的に5〜10年といった長い時間をかけて治験は行われます。
がん患者さんにとっての「治験」のメリット
上記のように、治験は新しい薬や治療を世に出すための研究ですが、がん患者さん、特に進行がんの患者さんにとっては、重要な治療選択肢の一部になっている側面もあります。
がんの治療は、比較的早期で転移などがない場合には、手術や放射線治療などで患部を取り去ってしまう治療が基本です。それで完治する患者さんも多くいます。一方、がんが進行して周囲の臓器に広がったり、遠隔転移したりして手術など局所の治療ができない(意味をなさない)場合、全身に作用する抗がん剤や分子標的薬といった薬物療法を行うことになります。
しかしながら、がんの種類や進行度によっては有効な(既に承認済みの)薬がない場合や、最初は使える薬があっても、使用を重ねるうちにがんの耐性によって効かなくなり、最終的にもう使えるものがなくなるというケースも少なくありません。治験中の薬はまだ安全性・有効性の評価途中のものではありますが、治験に参加することで、通常では受けられない、新しい可能性をもった治療(薬)を受ける機会を得ることができます。
また、現在広く使われている薬も、過去の患者さんの協力があってこそのものです。治験に協力することは、新しい薬が必要となる将来の患者さんに役立つことになります。
治験に参加するには
患者さんの自由意志で参加できる
治験への参加は、患者さんの自由意思で決めることができ、治験に参加した後でも、自分の意志でいつでもやめることができます。
治験参加を検討する場合には、担当する医師や、治験コーディネーターというサポートスタッフから、治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用など、治験に参加されない場合の治療法、プライバシーの保護などについて必ず詳しい説明があります。もちろん、その治験薬を使っても効果が期待できないといった場合には、医師からそのようにアドバイスをもらえますので、説明を聞いた後、ご家族などとも相談のうえ、参加するかどうかを検討できます。
参加条件が設けられている
治験は、臨床研究としての評価を適切に進めるために、例えば以下のような参加条件が設けられています。条件は治験ごとに異なっており、条件に当てはまる患者さんのみが参加可能です。
・年齢
・性別
・疾患(○○がんと診断された方、など)
・進行度
・これまでの治療歴
・病状
など
特定の医療機関で行われている
治験は、治験が実施できる条件を満たした医療機関で行われており、自分の住まいの近くで行われていない場合もあります。特別に条件が決められていなければ、治験実施施設以外の病院の患者さんも参加できますが、通院ができない場合などは参加が難しくなります。
どの病院で実施されているかは治験ごとにまちまちですので、治験担当医師や治験コーディネーターへ確認が必要です。
実施中の臨床研究の情報を入手するには
がんの治験は数多く行われていますが、その情報は、患者さん誰にとってもわかりやすい形で公開されているとは言えません。
治験参加がその患者さんにとって適切な選択肢である場合には、主治医に相談すれば、自分が参加可能な情報を調べてくれますので、相談してみましょう。
【作成参考】
厚生労働省 治験について(一般の方へ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukyu.html
国立保健医療科学院
臨床研究情報ポータルサイト
https://rctportal.niph.go.jp