知っておきたい「がん治療」に役立つ知識

罹患率と死亡率の減少が目標の50年。日本の「がん対策」

監修:堀田知光(ほった・ともみつ)
国立がん研究センター名誉総長/国立病院機構名古屋医療センター名誉院長

2017年4月5日

がんの罹患率の上昇は、検診精度の向上による早期発見の賜物ともいえる

がん検診受診率のデータは、「対策型検診」と「任意型検診」が混在している場合が多いが、男女とも検診率は上がっている。

 

がんの原因として、喫煙、過度の飲酒、偏った食事などが挙げられるが、「生活習慣の乱れだけが、がんの罹患率を上げている」と一概にはいえない。検査の精度が向上したことで、今まで見つからなかったがんが、早期に発見できるようになったとの見方もできるからだ。堀田医師によれば「罹患率=発見率」。がん対策として掲げてきた検診推進の成果ともいえる。

「検診を定期的に受けることは重要ですが、検診には『対策型検診』と『任意型検診』があり、目的や検査の内容が異なることを把握しておいてください」と語る。

対策型検診とは、国の交付金で市区町村が行う事業の一環で、検診の対象は、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がんの5大がんに限られる。対象集団全体の死亡率を下げることが目的なので、対象集団の死亡率が高いがんに絞って調べるというのがその理由だ。一方、人間ドックなどのように検査項目が自分で選べ、全額自己負担で行うのは、任意型検診。「任意型検診の場合、検査項目を選ぶことも大切です。PET検査を例にとると、もともとがんの広がりを診て治療効果を判断するためのものなので、1センチ以下の腫瘍には反応せず、早期発見につながらない可能性もあります」

無料の対策型検診については、以前より検診率が上がっているとはいえ、働き盛り世代の利用が伸びないという問題もある。一方、対象年齢に上限なしについても、そのままになっている。また、乳がん検診については対象となる40歳よりも若い人の発症が目立つ。「こうしたことを見直しつつ、日本のがん対策は、さらに人々のニーズに沿って進展していくべき」と堀田医師は今後の課題も冷静に見据えている。

 

任意型検診には、個人が自分の目的や好みに合わせて検診を選択できるという利点がある。しかし、なかには早期発見に向かない検査や有効性の確立していない検査もある。

 

いずれも対策型検診。胃がんと子宮頸がんから始まって、その後、肺がん、乳がん、大腸がんと、順次導入されてきた。

堀田 知光
国立がん研究センター名誉総長/国立病院機構名古屋医療センター名誉院長
ほった・ともみつ●1969年、名古屋大学医学部を卒業後、東海大学医学部長を経て、2006年、国立病院機構名古屋医療センター院長に就任。12年には国立がん研究センター理事長に。現在は両センターの名誉総長、名誉院長を務める。専門分野は血液内科。日本血液学会名誉会員、厚生労働省「がん対策推進協議会」委員など歴任。
(取材時現在)

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