がんを明るく生きる

息子から教えられた命の奇跡―小椋 佳 (歌手・作詩家・作曲家)

2015年10月14日

死を見つめて人生を問う。ずっと続けてきたことだから、がんになっても変わらない。

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これを機に宏司さんの体は徐々に回復していった。「ここまできたら、普通の男としての人生をまっとうさせてやりたい。それには、生きる喜びと誇りのもてる仕事を与えなければ――」。小椋さんは、様々な学校や職人のもとへ宏司さんを連れて行った。「その中で唯一興味を示したのが琵琶づくりの修業。息子は親元を離れての修業に10年間、耐えました」。

40歳を過ぎた宏司さんは、今、日本に3人しかいない琵琶づくりの職人として伝統を支えている。

「余命」を明るく受け止めて希望をもって生きる

「がんは手ごわい病気ですが、深刻になり過ぎることはないと思います。僕の場合も、生きる意味を求めて、日々、努力を続けることに変わりはありませんでした」

転移も再発もなく14年が過ぎたが、不都合もある。胃の大半を切除したことで食欲が起こらず、肉、牛乳、油ものはNG。すしも時間をかけて2貫食べるのがやっとなのだ。しかし、小椋さんは前向きだ。毎日、食事の工夫をしてくれている妻に感謝し、「がんのおかげで小食になり、血糖値が正常になった」と笑う。昨年は、生前葬コンサートで話題を集めた。「葬式を終えて、『余命』という新しい人生を歩き始めた。Simple Slow Steadyをモットーにゆっくりだけどしっかり生きていこうと決めました」。小椋さんの言う「余命」には、希望と歓びがある。

 

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右上:合唱団「JJ」には女性部もあり、小椋さんと一緒にステージに立つこともある。 左上:二男宏司さんが製作した琵琶を奏でる小椋さん。宏司さんは、「やっと完成した琵琶を贈ったときの父のうれしそうな顔を見たら、それまでの苦労が吹き飛びました」と最初に琵琶をプレゼントしたときのことを振り返る。

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小椋 佳さんの今

生前葬コンサート後も、意欲的に音楽活動を続ける小椋さんの楽しみの1つに、自ら率いる合唱団「JJ(ジョリージョーカーズ)」の練習がある。「JJ」は、小椋さん曰く、15人ほどの「おじいちゃま合唱団」だが、大企業の社長、弁護士や検事など、錚々(そうそう)たるメンバーが名を連ねる。月に2回ほど集まって練習し、小椋さんのコンサートに参加することもある。「メンバーの中には、僕の他にもがん経験者がいますが、皆さん、音楽を通じて青春していますよ」。練習の後は、ゆっくりと語り合いながら食事を楽しむ。小椋さんが最もくつろげる時間だ。

大ホールだけでなく、老人ホームなどでコンサートを開くこともある。コンサート情報は、www.gfe.co.jp/ogla/schedule.htmlをチェック。

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