がん時事通信

強い抗がん効果を発揮するリンパ球「NKT細胞」をiPS細胞から作製。がん免疫治療に新たな一手

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日々、発展を続ける、がん治療研究。なかでも、「第4のがん治療」として注目を集めているのが、生まれながら人間の体のなかにある免疫細胞を活用した「がん免疫治療」だ。

がん細胞には、自分ががんであるという目印(がん抗原と呼ばれる)を細胞表面に出しているものと、その目印を失ったものの2種類が存在するが、両方のがん細胞を同時に排除しないと再発が起こる可能性が高まる。免疫細胞のひとつである「NKT細胞」は、がん抗原の発現を失ったがん細胞を見つけて殺傷する「NK細胞」と、がん抗原を発現するがん細胞を攻撃する「T細胞」を同時に活性化できるために、再発を防ぎ高い抗がん効果を発揮する。

そんなNKT細胞を使ったがん免疫治療だが、この度、気になるニュースが飛び込んできた。それが、iPS細胞(人工多能性幹細胞)からNKT細胞だけを大量に作り出す実験に成功したというもの。理化学研究所(理研)の研究チームが再生医療実現拠点ネットワークプログラムの支援を受けて実現した世界初の成果だ。プロジェクトに携わった、理研統合生命医科学研究センター副センター長で、免疫器官形成研究グループの古関明彦グループディレクターに、これまでの経緯について話をうかがった。

抗がん効果を発揮するリンパ球「NKT細胞」をiPS細胞から作製

「NKT細胞は、1986年に谷口克教授(当時千葉大学教授、その後、理研免疫・アレルギー科学総合研究センターセンター長)や私を含む研究チームにより発見された免疫細胞のひとつです。マウスを使った実験で抗がん効果が認められ、2010年ころからは進行肺がんの患者さんを対象に臨床試験も実施しましたが、被験者17名のうちよく反応した10名の患者さんの平均生存期間の中央値は約30カ月と、標準治療後に効果がなかった患者さんの平均生存期間4.6カ月に比べて、大幅な延長が認められています」

NKT細胞が優れているのは、それ自体ががん細胞を攻撃するばかりか、がんを攻撃する他のリンパ球、例えばキラーT細胞やNK細胞を活性化したり、樹状細胞を成熟させるなど、免疫系の他の細胞も動員させる「アジュバント作用」と呼ばれる機能を持つこと。しかも、他人(他家)のNKT細胞を移植した場合であっても、移植後短時間に排除されても、腫瘍に対するNKT細胞機能や抗腫瘍効果が維持される点が特徴的である。

「問題はステージの進んだ多くのがん患者では免疫不全が進んでNKT細胞数が極端に少ないためにこの治療法を受けられないことでした。健常人でも末梢血(採血するような血液)中では、リンパ球全体の0.1〜0.01%しか含まれず、これまでの治療では十分な数の細胞を治療に使用することができなかったため、効果が低かったのです。そこで、iPS技術を用いてNKT細胞を無限に増やす技術開発を行いました。患者自身から採取したNKT細胞から一度iPS細胞を作り、それを再び大量のNKT細胞に分化させて体に戻せば、治療効果が期待できます」

課題は作製にかかる時間短縮。他人のNKT細胞利用に期待

これまでの、皮膚などから作製するiPS細胞技術では、がんを攻撃するNKT細胞を作ることができなかった。従来のiPS細胞からNKT細胞を作る場合、NKT細胞が出現する頻度は1億分の一以下と極めて低いからだ。しかし、古関氏の研究グループではNKT細胞からiPS細胞を作製し、そこから、大量のNKT細胞だけを分化させることに成功した。さらにこうして作製したNKT細胞は、生体内にあるNKT細胞と同じように、がんを殺傷する能力を持っていることも分かった。

「末梢血から採取した少量のNKT細胞を試験管のなかで増やし、iPS細胞化。優秀なiPS細胞だけを選び、3段階の培養を経て再びNKT細胞にするのです」
古関氏の研究グループでは、ヒトのNKT細胞からiPS細胞を作製し、大量のヒトNKT細胞を分化させることにも成功している。
ただ、課題も残る。上記のプロセスでは約1年もかかってしまい、治療が間に合わない可能性が生じる。

「作製に1年かかるという問題には、他人のNKT細胞を使うことでクリアできるかもしれません。例えば、あらかじめ健康な方などから採取した細胞を、NKT細胞手前まで培養した段階で冷凍保存しておき、必要とする患者さんに応じてタイミングを合わせて分化させれば、時間を短縮できます。技術面、安全面で確認すべき課題は残りますが、2、3年以内に、臨床試験に移行できればと考えています」

乗り越えるべきハードルはまだまだ多く、いますぐ患者に応用できるというわけではない。しかしながら、単独治療はもちろん、他の治療と併用することでも、より高い効果が期待できる、この技術。早期の技術確立が待ち遠しい。古関氏をはじめとする研究チームの取り組みに注目したい。

*本研究は、科学技術振興機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点」の支援を受けて実施しています。

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