がん哲学との出会い

患者さんの笑顔と生きがいを守るのは周囲の人たちの理解と「言葉の処方箋(せん)」

医師と患者さんがお茶を飲みながら対話し、心を通わせる「がん哲学外来」。患者さんやご家族の心の痛みを癒すスピリチュアルケアの重要性が認められる中、「がん哲学外来」ではどんなことをしているのか。その様子を提唱者である樋野先生に伺った。

 

「がん哲学外来」の取り組みをきっかけに、患者さんとご家族、医療関係者が立場を越えて、大勢で語り合う「メディカル・カフェ」が誕生。現在は医療機関や喫茶店など、全国45カ所の施設で様々な活動が行われている。「数学では、マイナス×マイナス=プラスになる。この法則は人間にも当てはまり、悲しみを知った人たちが出会うと元気になるのです」と言う樋野先生の言葉通り、参加者の表情は明るい。東京・お茶の水メディカル・カフェにて。
「がん哲学外来」の取り組みをきっかけに、患者さんとご家族、医療関係者が立場を越えて、大勢で語り合う「メディカル・カフェ」が誕生。現在は医療機関や喫茶店など、全国45カ所の施設で様々な活動が行われている。「数学では、マイナス×マイナス=プラスになる。この法則は人間にも当てはまり、悲しみを知った人たちが出会うと元気になるのです」と言う樋野先生の言葉通り、参加者の表情は明るい。東京・お茶の水メディカル・カフェにて。

 

友人やご家族にがん患者さんがいる場合、何とかして当人の病気や死への不安を軽減してあげたいと思いますね。それは周囲の人たちが勝手に、「がん患者さんを悩ませているのは病気や死への不安」と決めつけているからです。ところが、「がん哲学外来」で患者さんの心の声に耳を傾けると、病や死への不安より人間関係の悩みのほうが多いのです。「夫や妻の態度が冷たく感じられて家に居場所がない」と孤独を感じたり、主治医に質問をしただけなのに、「他の病院に行かれたらどうですか」と言われて傷ついている患者さんは少なくありません。

そうした悩みを解消するために、私は面談の場にご家族や主治医を呼ぶこともあります。双方の意見を聞いて橋渡しをすると徐々にわだかまりが解けて会話が始まります。ちょっとした気持ちのズレが原因していることが多いので、軌道修正はそれほど難しくありません。これが、「がん哲学外来」のモットーとする偉大なるお節介です。

同じお節介でも、自分の気持ちを押し付けるのは余計なお節介。例えば闘病中で食欲がない夫に、あれこれ食べさせようとしてはいませんか? 例え相手の身を案じるが故の行為であったとしても、残念ながらこれは余計なお節介です。食べようとしても食べられない相手の苦しみを本当に理解しているでしょうか。ご家族や周囲の方には、そこを忘れてほしくないのです。

人間対人間が心から語り合えるまでになるには、それなりの時間が必要だが、「がん哲学外来」ではそれを1時間ほどで行う。ときには互いに言葉に詰まり、沈黙が続くこともあるが、温かいお茶とケーキが、その場の空気をなごませる。
人間対人間が心から語り合えるまでになるには、それなりの時間が必要だが、「がん哲学外来」ではそれを1時間ほどで行う。ときには互いに言葉に詰まり、沈黙が続くこともあるが、温かいお茶とケーキが、その場の空気をなごませる。
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