がんと免疫

免疫療法で新たに注目される「NK細胞」

「免疫細胞」には様々な種類があり、役割も異なります。その一つ、NK(ナチュラル・キラー)細胞が、がん細胞への攻撃に効果的に働くことが分かり、一部の医療機関ではがん治療の臨床応用も試みられています。その働きに注目し、「NK細胞療法」の安全性と有効性を確かめる臨床研究に取り組んでいる九州大学先端医療イノベーションセンターの高石繁生先生と飯野忠史先生に話を伺いました。

 

がん細胞やウイルス感染細胞を単独で、いち早く攻撃、殺傷する

人間の体は、細菌やウイルスなどの病原体、また正常な細胞が突然変異して発生するがん細胞などによって、常に危険にさらされています。それでも病気を発症せずにいられるのは、病原体から体を守る免疫システムが働いているおかげです。この免疫の中心的な役割を果たしているのが、「免疫細胞」と総称される細胞群です。

その正体は血液中の白血球で、下の表に示したように、それぞれの役割を担う免疫細胞が連携し、免疫システムを保っています。前回までに、γδ(ガンマ・デルタ)T細胞や樹状細胞について紹介しましたが、今回は病原体の発見と初期攻撃を担当し、「生まれながらの殺し屋」と呼ばれる「NK(ナチュラル・キラー)細胞」を紹介します。

 

免疫システムを担う細胞たち
vol6_meneki02

 

「リンパ球は形がよく似ていて区別がつきにくいんです。NK細胞の発見はT細胞よりも後で、まだ十分に解明はされていませんが、がん細胞を殺傷する能力があることが分かっています」。九州大学先端医療イノベーションセンターの高石繁生先生はこう説明します。

リンパ球のうちT細胞は、攻撃力は高いものの、樹状細胞などからの攻撃指令が必要です。それに対し、NK細胞は常に体内をパトロールし、がん細胞やウイルス感染細胞などを見つけると単独でいち早く攻撃、殺傷します。人間の正常な細胞表面に出ている「MHCクラスⅠ」という分子のない自己以外の異常な細胞や、ウイルスに感染したり、がん化したり、様々なストレスを受けた細胞に発現する「MIC A/B」という分子が出ている細胞などを独力で見分けて攻撃します。これが「生まれながら(ナチュラル)の殺し屋(キラー)」という名前をもつ所以(ゆえん)です。

「自然免疫を担うNK細胞は、獲得免疫のT細胞に比べて原始的と思われてきましたが、最近になり、NK細胞は複雑で高度な働きをすることが分かってきました。例えば妊婦の場合、母体の中にいる胎児は母親にとり「自己」ではありませんが、例え自分ではなくても、胎児を攻撃しないよう、NK細胞は高度な機構で調節しているのです」と飯野忠史先生。

vol6_meneki01
キラーT細胞(CTL)やヘルパーT細胞といったT細胞は、樹状細胞から指令を受けた抗原(がんの目印)をもつ特定のがん細胞だけを認識し、攻撃する。それに対し、NK細胞は、指令を受けずに自由に体内を巡回し、様々ながん細胞を見つけて攻撃できる。

 

●コラム①
1975年に発見されたNK細胞

増殖中のNK細胞。
増殖中のNK細胞。

白血球の30%を占めるリンパ球のうち、70〜 80%がT細胞、5〜10%がB細胞であることは分かっていたが、残りの免疫細胞については長い間解明されていなかった。NK細胞が発見されたのは1975年。日本の仙道富士郎氏(元・山形大学学長)や米国のロナルド・ハーバマン氏(当時、ピッツバーグがん研究所教授)の研究により、独力で働き、がん細胞やウイルス感染細胞などを初期段階で攻撃する自然免疫系の細胞が存在することが分かり、「生まれながらの殺し屋」と命名された。不明のリンパ球のうち15〜20%がNK細胞、1%未満がNKT細胞であることが判明したが全貌(ぜんぼう)は解明されておらず、未だ研究途上の免疫細胞である。

 

キーワード 「自然免疫/獲得免疫」
生体の免疫機構は、「自然免疫」と「獲得免疫」に大別される。体内に侵入した病原体などをいち早く発見し、最初に攻撃をしかける先天的な免疫反応は「自然免疫応答」と呼ばれる。その役割を担うのが好中球、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞などで、これらの免疫細胞が初期攻撃時に得た情報を受け取り、やや遅れて誘導されるのが「獲得免疫応答」である。樹状細胞などの抗原提示細胞が病原体の特徴を記憶し、T細胞やB細胞に攻撃指令とともにその特徴を伝えると、T細胞は強力なキラーT細胞(CTL)に変化して病原体を集中攻撃し、B細胞は「抗体」という飛び道具を産生してその病原体を無力化する。さらに、学習したこれらの免疫細胞は、同じ特徴の病原体が侵入すると素早く認識して攻撃し、防御できるようになる。この後天的に備わる免疫反応を「獲得免疫応答」と呼んでいる。

次のページへ