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極小カプセルに薬物を装填、副作用を抑え、効率よくがん細胞へ送り届ける驚異のナノテクノロジー

がん細胞に薬物を届ける極小カプセル「ナノミセル」

ナノテクノロジーとは、物質をナノメートル(nm、1nm=10-9m)という原子や分子のレベルでコントロールする技術だ。この工学系技術のがん治療への応用が注目されている。

それが、東京大学医学系研究科の片岡一則教授らが中心になり研究を進めるナノミセルという物質を使ったドラッグ・デリバリー・システム(DDS:薬物送達システム)だ。

DDSの考え方はいたってシンプルで、通常の薬を血中に投与すると全身に広がってしまうところを、標的となるがん細胞にのみ集中するように設計された「ミセル型ナノデバイス」(ナノミセル)に薬を搭載し、標的にのみ集中して届けようというものである。

人間の体には異物を認識し、排除する働きがある。それゆえ、ナノミセルには異物認識を逃れる設計が求められるほか、標的(がん細胞)に向かう機能、標的の環境に反応して薬が出る機能などが必要となる。そうした機能を長さ10nmの1本の高分子に組み込む高度な技術が、片岡教授による研究で可能になった。

この高分子の構造は、水になじむ親水性の部分となじまない疎水性の部分からなっている。疎水性の部分に、抗がん剤などの薬剤を結合して水中に入れると、高分子は疎水部分が水を避けるように集まって核(コア)が形成され、外側には親水性の殻(シェル)ができる。こうして二重のコアーシェル構造を持つカプセル状のナノミセルができているのである。外側の部分は、生体から拒否反応を受けることがないので、免疫システムという体内のレーダーに検知されない「ステルス戦闘機」のような存在になり、内側の薬剤を隠しつつ血中を流れる。

また、腫瘍周辺で作られる血管には、内皮細胞の間に通常より大きな隙間がある。このため血中を運ばれたナノミセルは、腫瘍部に到達すると、その血管の隙間を通り抜けて組織内へ入り込む(EPR効果)。このように「デリバリー」されることで、難治性のがんにも高い治療効果が得られる。

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①10nm という極小の高分子化合物の親水性部分に標的指向機能を、疎水性部分に薬剤や造影剤の機能と、細胞内の環境に応答する機能を組み込む。

②これを水中に入れると、疎水部分が核(コア)を形成、外側に親水性の殻(シェル)ができ、コアーシェル型のナノミセルができる。

③高分子薬物(ミセル型ナノデバイス)は、隙間の小さい正常細胞の血管細胞を透過することができない。一方、がん細胞の血管細胞には内皮細胞間により大きな隙間ができるため、高分子薬物をがん細胞まで送り届けることができる(EPR 効果)。

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