数字から見る「がん治療」の今

知っておきたい「がん緩和ケア」の誤解

日本のがん治療は今、大きく変わろうとしている。
これまでの主流である手術・抗がん剤・放射線治療に加え、「がん緩和ケア(がん緩和治療)」を、早期からがん治療の大きな柱として取り入れようという考えが広がっているのである。
とは言え、がんの早期から緩和ケアが受けられることを知っている人は約38%(日本緩和医療学会平成22年度調査より)と、まだまだ少ない。
今回は、がん緩和ケアの誤解を取り上げ、がん治療の「今」を見ていきたい。

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知られていない 早期から受けられるがん緩和ケア
がん経験の有無別でも大きな差異はなく、認知度は総体的に低い。特定非営利活動法人日本緩和医療学会では「市民に向けた緩和ケアの説明文」を作成し、今後、PRしていく。

 

 

 

 

終末期だけでなくがんと診断された時から開始すべきがん治療の柱の一つ

vol4_suji02WHO(世界保健機関)は、がん緩和ケアを「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族が抱えている身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛を早期に診断し、適切に対応・治療することでQOL(生活の質)を向上させる医療」としている。

がん緩和ケアは、1990年頃までは「終末期医療」とされてきた。しかしWHOは2002年の改定で、その概念を「がん治療の早期から開始すべき積極的な医療」へと転換した。

日本でも2007年、「がん対策推進基本計画」(キーワード参照)が策定され、「がん患者及びその家族が可能な限り、質の高い療養生活を送れるようにするため、治療の初期段階から緩和ケアの実施を推進していくこと」が掲げられた。

各関係機関は国民への普及活動にも取り組んでいるが、「がん緩和ケアが早期から受けられる」ことをまったく知らない人が約6割と、認知度はまだ低いようだ。
また、インターネットで「緩和ケア」を検索してみると、「ホスピス」「ターミナルケア」「積極的な治療は行わない」「終末期」など、死の直前に短期間だけ関わる医療と勘違いしてしまいそうな情報が多く、混乱を招くような状況がある。これは、緩和ケアが、終末期に限った診療とされてきたことや、疼痛に使う医療用麻薬(モルヒネなど)への抵抗感があるからとされる。

こうした「緩和ケア=終末医療」というイメージを変えるため、医療機関にも動きがみえる。例えば、がん研有明病院では、「がん治療の柱の一つである」という考えから、2012年に「緩和治療科」と名称を変更した。他にも、「緩和支持治療科」(聖隷三方原病院)、「緩和支持医療科」(岡山大学病院)、「がんサポートチーム」(大阪医療センター)などの名称で診療を行っている病院もある。
緩和ケアによって心と体の痛みがとれれば前向きな生活が送れるようになる
がんに伴う苦痛は、痛み、呼吸困難、倦怠感など体の苦痛だけではなく、不安、抑うつなどの心の苦痛、仕事や家族、経済的な問題などの社会的な苦痛、さらに、死に対する恐怖や生きる意味への問いかけなど、いわゆるスピリチュアルペインと呼ばれる苦痛も全面に出てくる。心身ともに衰弱すれば、患者のQOLを低下させるのはもちろん、がん病変を縮小させる治療を継続できなくなる場合もある。がん緩和ケアによって心と体の痛みがとれれば、食事や睡眠がとれるようになり、図①のような前向きな生活が送りやすくなる。そうなれば、抗がん剤治療や放射線治療など、がんを縮小させる治療を前向き、適正に受けられるようになる。さらにがんを縮小させる治療が効かなくなってからでも、がんと共存することも可能になる。

 

図① 痛みがとれればこんなことが可能になる

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心と体の痛みがとれれば食事や睡眠がとれてQOLが改善され、心まで前向きに!
がん緩和ケアの一つに、体の痛みをとることがある。軽い痛みには、非ステロイド性消炎鎮痛薬、アセトアミノフェンを使い、それでも効かない痛みに対して、モルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)を追加する。これは、「WHO方式がん疼痛治療法」と呼ばれる標準治療のがんの痛みに対する治療法である。

 

[キーワード] がん対策推進基本計画
がん対策基本法に基づき政府が策定した。2012年の改定では、がんと診断された時からの緩和ケアの推奨を掲げ、「5年以内にがん診療に携わるすべての医療従事者が基本的な緩和ケアを理解し、知識と技術を習得する」「3年以内に拠点病院を中心に緩和ケアチームや緩和ケア外来の充実を図る」などとされた。

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