部位別がん治療

膵がん治療の最前線

監修

平野 聡(ひらの・さとし
北海道大学病院 教授/北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室Ⅱ 教授

土川 貴裕(つちかわ・たかひろ
北海道大学病院 診療准教授/北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室Ⅱ 講師

初期段階では症状の出にくい膵がんは、早期発見が難しいうえ、転移や再発をしやすく、予後の悪い難治性がんの代表として知られています。手術のできないケースが多いなか、近年では研究が進み、術前の化学療法などによって手術が可能になるなど、治療の選択肢が増えています。北海道大学病院の肝胆膵外科医として膵がんのチーム医療に取り組み、免疫療法などにも詳しい平野聡医師と土川貴裕医師に最新治療や展望について聞きました。

 

膵がんによる死亡率を男女別に見ると、男性のほうが女性に比べて高くなっている。他のがんに比べて罹患数は突出して多くはないが、悪性度が高く生存率が低いために難治性がんといわれる。

 

がんが1センチ以下で見つかれば5年生存率は8割に

厚生労働省人口動態統計によると、2014年、膵がんによる死亡数は3万人を超え、その数は年々増え続けています。罹患率を年齢別に見ると60歳を境に増え始め、高齢者になるほど罹患率は高まり、性別では女性よりも男性のほうがやや高いのが特徴です。

2017年9月時点、最新のがんの統計では、膵がんの罹患数は悪性腫瘍全体の第7位であるのに対し、死亡数は肺がん、大腸がん、胃がんに次いで第4位。これは、いかに膵がんの治癒が難しいかを物語っています。その要因に、膵がんが検査で見つけにくいことや、症状が出にくいことが挙げられます。そのため自覚症状が現れたときには、がんがかなり進行してしまっていることがほとんどです。

膵臓は、胃の裏側に位置し、肝臓、十二指腸、胆のう、小腸、大腸などに囲まれています。さらに背側には、大動脈から肝臓などに血液を送る腹腔動脈、消化管から肝臓に血液を送る門脈(上腸間膜静脈)などの重要な血管が走行しています。

膵臓がこのような位置にあるということは、がんが発生した場合、周囲の臓器や血管に浸潤し、さらに血液やリンパ液に乗り、離れた臓器にも転移しやすいことを意味しています。そのことが治療を難しくし、難治性がんといわれるゆえんにもなっています。

しかしながら、ここ数年「研究や治療が進み、膵がんを取り巻く環境は確実に変化しています」と、長年、膵がんの治療に取り組んできた平野先生と土川先生は話します。

「これまで膵がんは、手術で完全に取り除けたとしても5年生存率は約20%以下といわれていました。しかし、腫瘍が1センチ以下で見つかれば5年生存率が80%となり、早期に発見できれば治る可能性が高まることは確かです」

 

膵臓は人体の右側から「膵頭部」「膵体部」「膵尾部」に分けられる。膵臓には膵液を流す膵管が網目のように走り、膵液は中央を通る太い主膵管に集められて、肝臓から「膵頭部」を通る胆管と合流して十二指腸へ送られる。

 

膵がんの5年相対生存率(性別と年齢が同じで、がんの人とがんではない人の5年後の生存率を比べた割合)は、全症例で見ると10%以下と低めだが、早期発見の場合は40%以上。

 

検査機器の技術進歩により数ミリの早期がんが見つかる可能性も

膵臓は2つの大きな働きを担っています。1つは炭水化物や脂肪、タンパク質を分解する膵液を分泌する外分泌機能、もう1つは、インスリンやグルカゴンなど、血糖値を調整する様々なホルモンを産出する内分泌機能です。

臓器は長さ15センチ、横幅5センチ、厚さ2センチほどの細長い形をしており、十二指腸に隣接しています。体の右側は「膵頭部」、細く脾臓に隣接した左側は「膵尾部」、その間の部分は「膵体部」と呼ばれます。その中を、膵液を運ぶ細い膵管が網目のように走り、中央にはそれらを集める2〜3ミリほどの主膵管が通ります。膵臓にできるがんは膵管の上皮から発生する外分泌系のがんが約90%を占め、そのうちの4分の3は膵頭部に起こります。

膵がんの場合、初期症状はほとんどなく、無症状の方も少なくありませんが、病期が進むと、がんが発生する場所によって様々な症状が現れます。膵頭部に発生すると他の部分よりも腹痛などの症状が出やすく、特に胆汁を肝臓から十二指腸へ送る胆管にがんが浸潤すると黄疸を起こすのが特徴です。がんが胃や十二指腸、小腸へ広がると腹痛や吐き気、腸の狭窄や閉塞による食べ物の通過障害が起こります。

膵体部や膵尾部のがんは胃、背中、腰などの重苦しい痛みで気付くこともありますが、特に無症状で経過し、進行した状況で発見されることが多いといわれています。

また、肥満や過食などの要因がないのに糖尿病を発症したり、すでに治療中の糖尿病が急激に悪化したりした場合にも膵がんを疑います。とはいえ、どれも膵がんに特有とはいい難く、見過ごされやすいため、早期発見につながりにくいのが現状です。

土川先生は、検診を受けることが膵がんの治癒率を高める有効な手段だといいます。

「膵がんの原因は定かではありませんが、かかりやすい要因はいくつかあります。よく知られているのが糖尿病で、糖尿病の患者さんが膵がんにかかる可能性は、糖尿病でない方の2倍といわれています。肥満や喫煙、大量の飲酒などもリスクの1つで、1日40本以上喫煙する男性は、膵がんによる死亡率が、喫煙をしない人の3・3倍になるというデータもあります」

遺伝という面からも危険要因が推定できます。親または兄弟、姉妹、子どもに2人以上膵がんの患者さんがいる場合は、「家族性膵がん」とされ、膵がんになるリスクは高まります。

「検査技術も格段に進歩し、数ミリのがんが見つかるケースも増えています。前述したように1センチ以下なら生存率も治る確率も高くなりますから、危険因子をもつ方は、こまめに検査を受けることが大切です」と平野先生も膵がんの危険因子に対する自覚を促します。

 

キーワード 「家族性膵がん」
親または兄弟や姉妹、子どもに2人以上の膵がん患者さんがいる家系を「家族性膵がん家系」といい、家族性膵がん家系に発生した膵がんを「家族性膵がん」と呼ぶ。膵がんのうち5〜10%が家族性膵がんとされ、その背景には遺伝的要素があることが指摘されている。家族性膵がん家系の人は、一般の人よりも膵がんになるリスクが高いとされる。家族性膵がんの登録制度を基盤に研究が盛んに行われている欧米にならい、日本でも家族性膵がん家系及び一定の膵がん家族歴を有する人を対象にした登録制度がスタートした。今後、全国から集められたデータをもとに、早期診断、新しい治療法の開発などの研究に役立てられる予定となっている。

 

膵がんの検査は、画像検査と血液検査を総合して判断します。まず、エコーと呼ばれる腹部超音波検査で異常が見つかると、状況に応じて「CT(コンピュータ断層撮影)検査」、「MRI(磁気共鳴画像)検査」、「MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)検査」を行います。これらは痛みのない非侵襲的な検査ですが、より詳しく診断するには、内視鏡による「EUS(超音波内視鏡検査)」、「ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)」、「PET(陽電子放射断層撮影)」、さらに内視鏡で膵臓の細胞や組織を採取して顕微鏡で観察する病理検査を行います(下図参照)。

 

まず血液検査、腹部超音波検査を行い、膵がんが疑われるとCT、MRIによる画像検査や内視鏡を用いるEUSを行う。診断が難しい場合は胆管を直接検査するERCP、高度な画像診断が可能なPETを行い、それでも確定できなければ病理検査を実施し、総合的に判断する。

 

「超音波内視鏡を用いた検査では、1センチ以下の腫瘍を観察し、組織を採取したりすることができます。しかし、それらは少なからず体に負担がかかる検査です。そこで厚生労働省では、全国から1センチ以下の膵がんが見つかった患者さんのデータを集め、血液検査などで膵がんを早期に見極めるプロジェクトを進めています」(土川先生)

このように手軽な検査方法で膵がんの早期発見を目指す研究は、現在、世界各国で盛んに行われています。

抗がん剤の選択肢が広がり、術前、術後の併用によって手術成績改善の可能性が出てきた

膵がんの治療は手術が原則で、最も有効とされています。可能な限り、すべてのがんを取り切って根治を目指します。しかし、がんの状況、患者さんの全身状態によって手術できない場合、あるいは再発した場合には、放射線療法、抗がん剤治療(化学療法)が用いられ、進行度合によって治療は異なります。

そこでまず、治療の指標となるのは、手術が適応になるかどうかです。一般的に治療方針は「切除可能」、「ボーダーライン」、「切除不能」の3つの分類によって判断されます。

 

手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法の3つの標準治療が、がんの状態に応じて、1つあるいは複数組み合わせて行われる。近年は病期にかかわらず、手術後に抗がん剤治療を行う術後補助化学療法が主流になっている。

 

「切除可能」膵がんとは、画像検査で膵臓以外の臓器への明らかな転移がなく、膵臓周辺の主要な血管にもがんが広がっていない状態をいい、手術を行うことができます。

一方、他の臓器への遠隔転移はもちろん、転移がなくても、膵がんが動脈など膵臓まわりの主要な血管を取り巻いている場合は、「切除不能」膵がんと判断され、手術以外の治療が選択されます。

「ボーダーライン」膵がんは、遠隔転移はないものの、膵臓まわりの主な血管に近接し、根治切除可能性の判断が難しい状態をいいます。手術だけではがんが残る可能性が高いため、状況に応じて抗がん剤治療や放射線治療を併用します。

膵がんの進行度を示す病期は、がんの広がり、リンパ節や血管、他の臓器への転移(遠隔転移)があるかないかによって、ステージ0期からⅣb期の6段階に分けられます。膵がんの患者さんの半数以上はⅣ期で、すでに肝臓や肺などの臓器へ転移して手術不能な例はおよそ30%です。

手術のできない患者さんのうち、膵臓周辺でがんがとどまっている局所進行がんは、放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた化学・放射線療法、あるいは抗がん剤のみの化学療法を行います。

「ケースバイケースですが、腫瘍が動脈などを巻き込み、手術で取り除けない場合は、進行を抑えたり、痛みをコントロールする目的で放射線治療をすることもあります。最近は腫瘍のみを照射できる効果の高い粒子線治療が注目され、北海道大学病院でも粒子線の一種である陽子線を用いる陽子線治療センターを併設しています。以前は、単独で行われていた陽子線治療も、全身治療である抗がん剤を合わせた方が治療効果は高いというデータもあり、抗がん剤を併用するケースもあります」(平野先生)

一方で、遠隔転移や周囲の臓器への浸潤が認められる膵がんは、手術以外の治療を行いますが、抗がん剤治療をした後に手術が可能になるケースも増えています。

現に土川先生も「抗がん剤で腫瘍が小さくなり、手術で取り除くことができたおかげで5年間再発せずに過ごしていらっしゃる患者さんもいます。以前は考えられませんでした」といい、その背景には、「抗がん剤の進歩がある」と平野先生は次のように説明します。

「膵がんは、がん細胞を取り巻く組織が線維化して硬くなるという特徴があります。そのため、抗がん剤ががん細胞に到達しにくく、治療効果は薄いと考えられてきました。これまで膵がんに使用される抗がん剤は、選択肢が少ないのが問題でしたが、例えば、ナブパクリタキセル(商品名アブラキサン)といった膵がんに到達しやすい薬剤が次々と開発され、選択の幅が増えています」

長い間、抗がん剤治療はフルオロウラシル(商品名5-FU)や、より効果の高いゲムシタビン(商品名ジェムザール)の単独投与が主流でした。しかし、いくつかの薬剤を併用すると治療効果が高まることが分かり、複数の抗がん剤を組み合わせる治療も取り入れられています。例えば、フルオロウラシルなどの4つの薬剤を併用する「FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法」や、ゲムシタビンとナブパクリタキセルを併用する、「GEM-nPTX(ジェムナブパクリタキセル)療法」がよく知られています。

現在は、切除可能な場合においても、手術後に抗がん剤治療を行う「術後補助化学療法」が推奨されています。手術で取り切ったとしても、目に見えないがん細胞が残っている可能性があるため、再発のリスクを減らすのが目的です。ティーエスワンという薬を使用した場合、日本人患者では手術単独よりも予後がよく、5年生存率は44%というデータもあります。

 

キーワード 「GEM-nPTX(ジェムナブパクリタキセル)療法」
長らく治療の選択肢が少ないことが問題だった日本の膵がん治療に新たな扉が開かれたのは、2013年12月20日のこと。治癒切除不可能な膵がんに対し、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)、オキサリプラチン(商品名エルプラット)、レボホリナートカルシウム(商品名アイソボリン)、フルオロウラシルの4種の抗がん剤を併用する「FOLFIRINOX療法」が承認された。さらに翌年には、ゲムシタビンとナブパクリタキセルを併用する「GEM-nPTX療法」も承認。ゲムシタビンの単独投与よりも治療効果が高く、死亡リスクを28%減少させることも分かった。FOLFIRINOX療法とGEM-nPTX療法の効果はほぼ同じだが、FOLFIRINOX療法は副作用が強く、特に日本人に骨髄抑制を強く発現するのに対し、GEM-nPTX療法は比較的副作用が少ないといわれている。

 

コラム 「小児がんへの保険診療がスタートした陽子線治療」
放射線治療といえばX線やガンマ線が一般的だが、陽子線もまた、水素という元素の原子核である陽子を束にして加速した放射線の一種。がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与え、臓器の障害を引き起こすこともあるX線やガンマ線に比べ、正常な細胞にほとんど影響せずに、深部にある腫瘍に直接照射してがん細胞を死滅させることができ、体に負担の少ない治療法として注目されている。自己負担となる高額な費用が課題となっているものの、2014年8月1日には厚生労働省に先進医療として認可され、16年4月から小児がんに対して保険適応となった。標準治療の新たな可能性が期待されている。

 

複合免疫療法という選択肢が増えテーラードメディシンの時代へ

最近ではがん治療の第4の柱とされる免疫療法。免疫療法は膵がん治療の分野でも注目され、複数の免疫療法を組み合わせる複合免疫療法の研究も進められている。

 
膵がんについては、新たな治療法の研究開発も盛んに行われ、治療の選択肢が増えつつあります。その1つとして土川先生が注目しているのが免疫細胞治療です。

「数年前まで、免疫細胞治療は膵がんには効きにくいといわれていましたが、最近の学会では、免疫細胞治療の1つであるCAR-T(カーティ)療法(遺伝子改変T細胞療法)は臨床応用段階にきていると報告されました。また、免疫チェックポイント阻害薬という免疫療法薬の膵がんへの研究も進んでいます」

CAR-T療法とは、自分のリンパ球を取り出し、遺伝子操作を加えたうえでリンパ球を体内に戻し、がんへの抵抗力を高める免疫細胞治療の一種。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫力を抑制するがんの力を阻止し、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを高めるがん免疫療法です。

「このような免疫療法を1種類だけでなく、複数組み合わせてがん治療を行う『複合免疫療法』の研究も盛んに行われています。ここ数年で種類の増えた免疫療法は、がん治療の第4の柱といわれるまでになりました」と土川先生。

治療体制も整いつつあります。北海道大学病院など、がん診療連携拠点病院では外科、腫瘍内科、消化器内科、放射線科、核医学、病理診断の専門医など、複数の専門領域にわたる医療スタッフが患者さんの状態や治療方針について検討する「キャンサーボード」の開催が義務付けられており、より専門的なチーム医療が行われています。とはいえ、難治性がんであることは変わりがなく、すべての人に効果のある治療法が確立されているわけではありません。

「患者さんによってがんの状態も特徴もそれぞれ違います。そこで、プレシジョン・メディシン(個別化医療)の流れも積極的に取り入れていくべきと考えます」

今後の医療のあり方についても、こう意欲的に語る平野先生と土川先生。

専門家がチームで取り組み、1人ひとりの患者さんにとって一番適した治療法を見極める——。それを目指すことで、厳しい膵がん治療の未来が開かれていくことでしょう。

 

キーワード 「キャンサーボード」
元々は「がんの評議委員会」という意味で、がんの患者さんに最善の治療を行うため、外科療法や薬物療法、放射線療法の専門医師をはじめ、各診療科の医師、看護師、薬剤師、放射線技師ら医療スタッフが一緒になって、患者さんの症状や状態について意見交換し、治療方針を検討する会議のこと。がん診療連携拠点病院では、キャンサーボードの設置と定期的開催が指定要件となっている。特に治療の難しい膵がんにおいては、様々な専門家が情報を共有し、多角的にチームで医療に当たることが重要だ。


 
▶アブラキサン®・ティーエスワン®は大鵬薬品工業株式会社、アイソボリン®はファイザー株式会社、カンプト®・エルプラット®は株式会社ヤクルト本社、ジェムザール®は日本イーライリリー株式会社、トポテシン®は第一三共株式会社、5-FU®は協和発酵キリン株式会社の登録商標です。

平野 聡
北海道大学病院 教授
北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室Ⅱ 教授
ひらの・さとし●1988年、北海道大学医学部卒業 。恵佑会札幌病院、函館中央病院、英国セントジェームス大学病院(リーズ)などを経て、2008年、北海道大学病院第二外科診療教授に就任。現在、北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ教授、北海道大学病院長補佐も務める。日本外科学会理事、日本消化器外科学会評議員、日本肝胆膵外科学会理事などを歴任。(取材時現在)
土川 貴裕
北海道大学病院 診療准教授
北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室Ⅱ 講師
つちかわ・たかひろ●1993年、金沢大学医学部卒業。武蔵野赤十字病院、University of Pittsburgh Medical Center、市立釧路総合病院などを経て、北海道大学病院第二外科助教に就任。2015年より診療准教授及び北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ講師を務める。難治性の高い膵がんの最新治療や研究、プロジェクトの他、免疫療法も推し進め、広く情報を発信している。(取材時現在)