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がんの痛みを消し、延命効果もあるモルヒネは自然界が人類に与えた最高の鎮痛薬

そしてこの痛みの伝達経路で、「オピオイド受容体」に作用する薬がモルヒネです。モルヒネは痛みの原因となる神経伝達物質よりも先回りして「オピオイド受容体」に結合します。この作用により、神経細胞は痛みの信号を受け取ることができなくなり、痛みを止めることができるのです。このようにモルヒネは「オピオイド受容体」に作用して痛みを改善することから、最近は、「医療用麻薬」より「オピオイド鎮痛薬」、または略して「オピオイド」と呼ばれることが多くなっています。

一方、痛みや呼吸困難感を改善する力を持つモルヒネは延命作用を持つことも報告されています。その結果は米国のがん専門誌『Cancer(キャンサー)』(2004年)に掲載されていますが、抗がん剤の効かなくなった患者さんで、モルヒネ内服量と生存期間を比較したところ、1日のモルヒネ投与量が多い患者さんが、痛みもない上に生存期間も長かったのです。

どうですか、皆様が持っているモルヒネののイメージは変ったでしょうか?

誤解が解消された方で、現在、強い痛みや激しい咳・呼吸困難感に苛まれていたら、すぐにモルヒネを使用した治療を医師に申し出て頂きたいと思います。

 

アヘンから精製されるモルヒネは200年の歴史を持つ鎮痛薬
モルヒネはヘロインとともに、ケシ(芥子)から抽出されるアヘン(阿片)が原料。アヘンの強い鎮痛効果は、古代エジプトの壁画にも記録されているほど歴史は古く、1840年にはそのアヘンを巡るアヘン戦争が起きている。アヘンからモルヒネが初めて精製されたのは19世紀初頭、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーによる。1853年に皮下注射針が開発されると、以降モルヒネは優れた鎮痛薬として普及した。ちなみにモルヒネの名付け親はゼルチュルナーで、ギリシャ神話に登場する夢の神モルフェウス(Morpheus)に由来する。モルヒネをはじめとするオピオイド鎮痛薬のほとんどは「麻薬及び向精神薬取締法」「あへん法」「大麻取締法」で取り締まりの対象となっている。アヘン、ヘロイン、コカイン、大麻もこの法の対象である。

taketo_mukaiyama01向山雄人(むかいやま・たけと)
がん研有明病院緩和治療科部長。著書に『生きる力がわく「がん緩和医療」』(講談社+α新書)『痛みゼロのがん治療』(文春新書)など。(取材時現在)
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