がんとQuality Of Life

歯の治療をきちんとし、口内を清潔に保つことががん治療を支える大切な柱になります

口腔外科の専門医として、国内でも先駆的に「がん治療時における口腔ケア」に取り組み、患者さんはもちろん、医療従事者に対してもその重要性について啓発活動を行う百合草先生に話を伺いました。がん患者さんを特に悩ませる口内トラブル、「口腔粘膜炎」や「口腔乾燥」の対策についてもアドバイスしていただきました。

 

がん治療における口腔ケアには、「口の中を清潔に保つこと」「湿らせること」「痛みを和らげること」「歯のメンテナンス」の4つのポイントがあります。しかし、患者さんの中には、「こうした口腔ケアとがん治療にどのような関係があるのか」と疑問に思う人もいることでしょう。そこで、この質問から解決していくことにします。

がん治療には2本の柱があるというのが私の考え方です。一つはがんそのものを治す治療、例えば、手術、抗がん剤治療、放射線治療などがこれに該当します。そして、もう一つの柱は、こうしたがん治療を支えるための治療。口腔ケアは、この「支える治療」の一つと考えてください。

抗がん剤や放射線治療を行うと、個人差はあるものの、体に何らかの副作用が起こります。特に口腔内は影響を受けやすい部位の一つで、歯茎から出血したり、歯周病や歯槽膿漏(しそうのうろう)が悪化したり、口腔粘膜炎に悩まされたりします。口腔粘膜炎とは頬の内側や舌、唇などに起こる口内炎のような炎症で、ときに強い痛みを伴います。菌が全身に広がって発熱の原因になることもあり、また、痛みを伴う口内トラブルの場合、食欲減退にもつながります。

 

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このほかの副作用として、口の中が乾いてヒリヒリする口内乾燥も挙げられます。唾液(だえき)には口の中の細菌やウイルスを洗浄する働きがありますから、唾液の出が悪くなると、これらの微生物が口内にとどまったままになります。これを放置すると虫歯が増え、歯槽膿漏が一気に悪化することにもなりかねません。口腔粘膜炎や口腔乾燥に代表される副作用は、化学療法や放射線治療だけでなく、分子標的治療薬によって引き起こされるケースもあります。

口内の汚れが手術に支障をきたすケースも少なくありません。例えば、全身麻酔時にチューブを口から挿入する際、口の中の細菌が術後肺炎の原因になったり、また、口の近くを手術した場合、何かの拍子に口内の細菌が傷口に入って、傷の治りが悪くなった症例もあります。こうしたトラブルを最小限に食い止めるためにも口腔ケアは欠かせません。

 

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